カレマネ
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59が国の4年制大学進学率が50%程度にとどまっているのに対して、OECD平均は60%を超える水準にあり、低い方に位置している。何をもって適正な水準とするかは、国ごとの事情や考え方によって異なるが、我が国における現下の状況を考えると、この問題に関する議論をさらに深めていく必要がある。そのために不可欠なことは客観的なデータの整備であり共有化である。政策を論じるにしても、個々の大学の経営を行うにしても、そのベースが整っていなければ、抽象論・観念論の応酬に終わり、議論が深まらず、合理的な判断も行えない。特に、大学ごとに管理会計を確立し、コストを的確に把握できる仕組みを整える必要がある。義本博司文部科学省大臣官房審議官(当時)も「大学の費用計算、特に学生一人当たりの教育費用について統一的な公表データが存在しないことが、政策推進上の制約になっている場合もある」とした上で、「設置形態を通じた大学の教育及び研究の費用計算のルール、統計資料及び公表のあり方などの見直し改善を図ること」の必要性を指摘している(義本博司(2013)「高等教育費政策の課題」『IDE現代の高等教育』No.555)。大学の進学率については、既存の統計数値だけでなく、高校との対話を通して、経済状態が許せば進学を希望する者が当該地域にどの程度いるかを把握したり、事業所や労働局との対話を通して、地域の雇用ニーズを質と量の両面で確認したりすることで、より掘り下げた検討が可能になる。また、社会人教育の需要の掘り起こしや卒業後の進路まで見通した留学生の受け入れ拡大に力を入れることは、高等教育需要の創出につながる。量的側面での適正水準は決して所与のものではなく、大学自らが社会と密に対話し、社会に能動的に働きかけることで、導き出されるものである。家計は高等教育のさらなる負担に耐えられるか次に、高等教育の費用を誰が負担するかについて考えてみたい。我が国の現状は、国公立大学が運営費交付金等の公財政支出に、私立大学が学生納付金にそれぞれ大きく依存する構造である。日本全体の負担構造をOECD諸国と比較した場合、私立大学の占める比率が高いことから、公的負担の割合が小さく、私的負担が大きいことは承知の通りである。その中で、欧米諸国を中心に公的負担から私的負担にシフトする動きが進んでいる。我が国においても、2015年度末時点での国及び地方の長期債務残高が、対GDP比205%に相当する1035億円に達する見込みであり、財務当局も高等教育予算に対して厳しい姿勢で臨んでいる。財政制度等審議会による「財政健全化計画等に関する建議」(2015年6月1日)では、国立大学運営費交付金を取り上げ、大学間・大学内における大胆な再編・統合、重点化による入学定員の見直し、教員規模の適正化、学内資源の再配分、収入源の多様化等による一層の効率的・効果的な大学運営を求めている。そのうち、収入源の多様化については、研究収入の積極的な獲得、私立大学の6割程度にとどまる授業料の引き上げなどの課題を挙げ、国費に依存しない財務基盤の強化が必要であることを強調している。私立大学との授業料格差については、イコール・フッティング論の観点からも、度々指摘されてきたことである。その格差を縮める形で国立大学の授業料が引き上げられ、私立大学も前述の費用増に対応して引上げを実施した場合、現状でも負担の大きい家計はそれに耐えられるのだろうか。同建議もその点を考慮し、「授業料を引き上げて収入の増加を図りつつも、その収入を財源として、意欲と能力がありながらも経済的に困難な学生層に対しては現状の水準よりも負担を軽減するような経済的配慮が必要である」と述べている。厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」によると、平成24年の1世帯当たり平均所得金額は537.2万円で、平成15年と比べると42.5万円減少している。中央値は432万円であり、平均所得額以下の割合は60.8%となっている。また、平成24年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は122万円で、それに満たない世帯員の割合である相リクルート カレッジマネジメント193 / Jul. - Aug. 2015

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