カレッジマネジメント196号
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19京都工繊の新たな挑戦は既に動き始めている。地域TECH LEADERの育成だ。今年(2016年)4月、京都工繊は京都府北部に福知山キャンパスを開設し、国際高度専門技術者を育成するための新たなプログラム「地域創生Tech Program」を開始する。本誌195号では「都市部を目指す大学」を特集したが、京都工繊の動きは、そんな都心回帰のトレンドとは一線を画すものだ。京都工繊があえて福知山市に進出する背景には、京都府北部、福井県嶺南地域、兵庫県北部に理工系人材が定着するための核となる機関がないという事情がある。福知山キャンパス開設は、国立大学に求められる使命に応じたものだと言っていい。さて、この地域創生Tech Programは、「バイオ・材料化学コース」「メカトロニクス設計コース」「デザイン・建築コース」の3コースから構成される入学定員30名のプログラムになる予定だ。学生は、1年次から3年次前期まで松ヶ崎キャンパスで教養教育と専門教育を通して基礎力を身につけ、3年次後期から4年次には福知山キャンパスで地域課題解決型学習(PBL)や地元企業や海外におけるインターンシップを通して実践的に学ぶことになる。松ヶ崎・福知山・海外の3地点での学習や活動を通して、地域と世界を相手に活躍できる新たな理工系人材を育成することが目指されることになる(図表4)。古山学長は、リーダーシップを身につけるための特効薬はない、重要なのは(1)体系的な基礎知識・技能を習得すること、(2)インターンシップの体験を通して現場への劣等感をなくすこと、そして(3)海外経験によって視野や可能性を広げることだと言う。まさにこうした3つの要素で構成されているのが今回のプログラムだ。今後の課題は、こうしたリーダー育成の成果をいかに測定するかだ。現在、総合教育センターが中心になって「TECH LEADER指標」の開発が進行中で(図表5)、来年度のシラバスでは、TECH LEADER指標に基づいてルーブリック評価の作成と試験的導入を進める予定だという。実は、京都工繊では、2009年度から21世紀知識基盤社会を担う専門技術者が備えるべき知識・技能を「KITスタン地域TECH LEADERの育成と成果測定地域TECH LEADERの育成と成果測定ダード」として体系的に整理し、その内容を修得する教育プログラムをスタートさせている。KITスタンダードとは、「遺伝子」「環境科学」「ものづくり」「造形感覚」「知的財産」の5つのリテラシーと、基礎科目である「英語」「数学」を21世紀の理工系学生が備えるべきリテラシーとして抽出したものだ。古山学長によれば、KITスタンダードは「リテラシー」であり、大学が基礎的知識として当然教授すべきものだ。その獲得や定着の有無を「KITスタンダード検定」という独自の検定試験で測定する取り組みも進めてきた。それに対して、TECH LEADER指標は学生の自覚を促すことを目的としている面が強い。実際、リーダーシップ像を指標化するのは容易な作業ではない。ひとまずは、学生にリーダーとなるのに必要な能力を自覚してもらうツールとして機能することを期待していると学長は説明する。本稿で見てきたように、京都工繊の取り組みの中心には常に「ものづくり」があった。実学重視で「ものづくり」のための人材を育成し、時代に応じて社会に送り出してきた。大学にはもちろん、教育研究を通した深遠な真理の探究も重要だが、他方で、実際にロボットを作ることで人間とは何かを明らかにしようとする即物的なアプローチもあると古山学長は言う。確かに科学技術は万能ではないし批判もある。しかし、「自分の技術が社会を変える」と信じて可能性を追求する人材も社会には必要だ。そうした信念を背景に、京都工繊は今、グローバル時代に要請されるTECH LEADERの育成を進めようとしている。京都に位置する小規模な理工系国立大学としての個性を存分に発揮し、京都工繊の強みを活かした社会的成果につながっていくことを期待したい。リクルート カレッジマネジメント196 / Jan. - Feb. 2016(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)特集 “学ぶ”と“働く”をつなぐⅡ大分類 3 中分類 9 小分類 26 1.能力を活かすためのグローバルスキル& ナレッジ ①専門性・技術力・語学力 ②高度情報収集力 ③文化力 ⇒ 3項目 ⇒ 2項目 ⇒ 2項目 2.多様な人々を率いるグローバル実践力・ リーダーシップ ④計画力 ⑤実行力 ⑥提案力 ⑦関係構築力 ⇒ 3項目 ⇒ 3項目 ⇒ 4項目 ⇒ 4項目 3.新しい環境下でのグローバル適応力 ⑧忍耐力 ⑨自己意識・自己肯定力 ⇒ 2項目 ⇒ 3項目 図表5  TECH LEADER指標小分類26項目について、9段階のルーブリックを作成

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