カレッジマネジメント196号
27/60

27ンシップや地域連携住居の取り組みは、学生支援戦略室が提示したアクションプランが、学生教育部を中心とする実施組織の中で具体化されていったものだ。「戦略室会議は、枠組みを提示するという役割も大事だが、もっと大事なのは会議を通じて参加者が学習すること。限りある期間の中で集中的に議論することで、皆が賢くなる」と山下学長は話す。例えば、ディプロマ戦略室では、「100%卒業、100%就職」との方針が提示されたことで、卒業水準に到達していない学生まで卒業させるのか、と学内で大きな議論となった。しかし同時に、教育の入口から出口までが教員の仕事である、との意識が広まる効果もあったという。「100%の卒業は、現段階でも達成できているわけではない。しかし、学生を卒業に至るまで責任を持って育て上げなければいけない、との理念を示すことが重要だった。学長のリーダーシップというものがあるとするならば、細かなところまで指示を出すというよりも、考え方のレベルを、一段上げるような議論の枠組みを投げかけることだろう」と山下学長は話す。成果としての志願者増、学生の変化、さらなる挑戦中部大学における不断の挑戦の成果は、入試の志願者数の増加にも見て取れる。中部大学の志願者数は、2008年以降、継続的な上昇傾向にある(図表4)。入学生の質の面でも変化がみられるという。「学生が元気になった」「意欲のある学生が増えた」と話す教員の声も少なくないとのことだ。「様々な取り組みを行っているが、大学全体として、社会とつながる活動を進めていることが成果につながっているのではないか。保護者の間でも、大学は知識を得るだけのところではないとの認識が広まっている」。同時に山下学長は、「もっと色んな提案をしないといけない。まだまだ挑戦が足りない」とも話す。具体的な課題として、例えば報酬型インターンシップについては、幅広い学生のニーズに応えるべく、より多くの地域の企業と連携していくことがこれからの挑戦となる。また、中部大学が求める人材像を高校生により明確に伝え、そこに共感する意欲ある学生の入学を促進するべく、2015年4月に立ち上がったアドミッション戦略室において、まさに現在進行形で次の打ち手に関しての議論が進んでいる。「教育も研究も、常に新しい価値を作ってこその大学。挑戦を止めてしまったら、終わりだと考えている。学生、教員、総力をあげてチャレンジしていきたい」と山下学長は話す。必然性を伴った、独創的かつ挑戦的な教育改革総合大学としての成熟を、社会との連携によって実現しようとする中部大学の取り組みは、シビアな社会認識を背景に、自大学に通う学生の等身大の課題、自大学の置かれた地域の切実なニーズを捉えた結果として創案された、必然性を伴う独創的な挑戦であった。「他大学を真似るのではなく、また他大学との優劣から考えるのではなく、自分達の過去と比べて、自分達の学生のために何ができるのかを考えて、挑戦を続けてきた。全ての取り組みが成功しているとは思わないが、社会とのつながりを築こうとする中で、春日井市、商工会議所とも、友好的な関係が続いている」(山下学長)。中部大学の社会連携は、中部大学の課題に根差した成果であり、安易に他大学が模倣できるものではないかもしれない。しかし、自大学の学生と、自大学の置かれた環境の課題に即し、絶えず進化を模索する中部大学の挑戦の過程には、日本の大学が広く学ぶべき教訓が、数多く含まれているように思われる。リクルート カレッジマネジメント196 / Jan. - Feb. 2016(丸山和昭 名古屋大学高等教育研究センター 准教授)図表4 募集人数・志願者数・志願倍率の推移特集 “学ぶ”と“働く”をつなぐⅡ0 5000 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 10000 15000 20000 25000 募集人数/志願者数 (人) (倍) (年) 志願倍率 1890 1890 2050 2050 2090 2130 2290 2380 2500 2500 18215 17059 17054 13959 13699 10959 9237 8532 8703 10843 5.7 4.6 4.2 4.5 5.2 6.4 6.1 7.2 6.8 7.3 0 1 2 3 4 5 6 7 8 募集人数 志願者数 志願倍率

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 27

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です