カレッジマネジメント196号
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37リクルート カレッジマネジメント196 / Jan. - Feb. 20161) 課題は「自立できない学生」本連載「就業力を育成する」は、就業力育成に取り組む先進事例を紹介し、同様に取り組む大学に有益な情報を提供することを目的に、2011年9月号/170号からスタートした。2015年11月号/195号までに26大学の学長に取材を行ったが、その内訳は、設置主体別では「国立:12、公立:1、私立13」、地域別では「北海道・東北:3、関東:9、中部:3、関西:4、中四国:3、九州:4」と、結果的にバランスのとれたものとなった。約4年にわたる連載を通して見えてきた事柄を振り返ってみよう。各回の取材は、概ね下記のような流れで行ってきた。①問題意識や改革の背景、②具体的な取り組み内容、③問題点、④今後の課題。①問題意識や改革の背景学生の就業力についてどのような問題意識があったか、それに対して、就業力育成を含む教学改革の方針をどのように定めたか。あるいは、現在の大学改革の中に就業力の育成をどう位置づけているかを尋ねている。大学により、学生の基礎学力、開学からの歴史、立地地域の条件等は異なり、それを反映して危機感のありようもそれぞれである。社会の急激な変化、就職環境の悪化、技術革新のスピード等をあげる学長が多かったが、共通して触れられることが多かったのは、「自立しない学生の増加」である。「おとなしい」「もう少し元気があってもいい」「言われたことを素直に聞き、自己主張が弱い」など、表現は様々であった。この背景には、少子化と進学率の上昇による学生の質の変化があると思われる。全入時代=ユニバーサルアクセスの時代の大学では、自立できていない・社会的に未熟な学生の割合が、従来になく高まっているということだ。「自分が学生だった頃とは違う」といった声も、幅広い世代から聞かれた。大学設置基準の改正や「就業力」事業等への取り組みが改革のきっかけになった例は多かったが、“就業力”という言葉そのものに対しては、否定的な意見が多く見られた。「就業力も大事だが、大学教育にはもっと大事なことがある」と本連載を振り返る3つのポイント本連載を振り返る3つのポイント穏やかながら否定する学長が多く、「本学の目指すのは『人間教育』『教養人育成』であり、就業力の育成ではない」など、全否定に近い発言も少なくなかった。初期には、「本学の就職率は十分に高いので、就業力についての問題はない」というふうに「就業力=就職率」と捉える傾向もあった。「産業界のニーズ〜」事業開始以降は、「就業力強化=産業界の短期的なニーズに迎合」(ここまで強い表現ではないが)という批判も出てきた。産業界の要請に沿って企業の即戦力となる人材を育成するのではなく、むしろそれとは異なる長期的な視野で総合的な人間教育にあたるのが大学教育の使命である、というスタンスだ。いずれにせよ、就業力育成=「社会的及び職業的自立を図るために必要な能力」の育成、と捉える学長は少数派だった。この言葉は、この(本来の)意味では定着しなかったように思える。2)取り組みのキーワードは「連携」②具体的な取り組み内容取材の中で多く語られたのは、協働教育、体験学習、PBL、アクティブ・ラーニング等、教育方法の見直しに関するキーワードである。しかし、従来の授業科目、授業方法を単に見直すだけではなく、大学教員の守備範囲を超えるチャレンジとして、他者、外部機関・外部専門家との連携、協力を推進する取り組みが多いため、教育方法に加えて「連携」が重要なキーワードとなる。《事例》成城大学(連載第2回 2011年11月号/171号)幼稚園から大学院までの一貫性を生かして学園内各校と連携、大学生が高校生に「大学で何を学ぶか」を伝えるプロジェクト等を実施。キャリア教育は、特任准教授、各学部の教授、「就業力育成支援室」の職員が協働して当たる。プログラムの評価委員は、地元自治体、産業界、卒業生等外部の識者を中心に構成される。《事例》鹿児島国際大学(連載第3回 2012年1月号/172号)鹿児島相互信用金庫との産学連携で、「3日間社長のカバン持ちインターンシップ」「海外(中国・大連)インターンシッ特集 “学ぶ”と“働く”をつなぐⅡ
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