カレッジマネジメント196号
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41リクルート カレッジマネジメント196 / Jan. - Feb. 2016者は育っているか――根掘り葉掘り聞いて、たまに店主に追い返される。大学に戻れば、今度は教授から「もう一回!」とはっぱを掛けられ、また出かける。こうしたやりとりで、学生は相当鍛えられます。江口ゼミは、「北海道・東北ブロック学生研究発表会」という文部科学省の事業で、並み居る国公立大学を抑え、2014年、2015年と2年連続で1位になりました。保健福祉学部も同様に、例えば過疎地に住まう一人暮らしの老人を訪ね、今どんな生活をしているのか、どんな課題を抱えているのかをヒアリングしていく。どちらの学部もアプローチは同じです。地域において、それぞれの人や企業がどんな事情を抱えて生きているのか。それぞれの「事情」に寄り添わない限り、解決策も見いだせないことを、身をもって知ってもらうということです。近年、本学は、こうした「教育力」が認められているとともに、「就職力」も評価されています。「旭大ナビ」というシステムが旭川市の約280社とつながっており、そこで学生と企業とのマッチングを実現しています。これが功を奏し、就職率の高さに加え、地元還元率も高く、およそ9割が旭川もしくは北海道内に就職しています。公立化、総合大学化に向けて地域貢献という点では、地域研究所を設置し、長年、市民向け講座を開いたり、教員が自治体の各種委員を務めてきました。ユニークなものとしては、2006年から始めた「君の椅子」プロジェクト。近隣6町村で生まれた赤ちゃんに「生まれてきてくれてありがとう。君の居場所はここにあるからね」の気持ちを込めて本学から椅子を贈るのですが、それが今年、累計1000脚に。サントリー地域文化賞を頂きました。昨今、かつて北海道に進出してきた大手私大の多くが少子化のあおりを受け、続々と撤退しています。どれほどの理念と哲学をもってこの地にやって来たのか、私は大きな疑問を感じています。われわれは長年、「村を捨てる大学より、村を育てる大学になろう」を信条としてやってきました。こちらは当初、効率優先の有名大学とは違って、ゆっくりとしたペースで地域を守り育てる「1周遅れのトップランナー」でよいと思っていました。ところが、「原発事故」という戦後教育に鋭く反省を強いる未曾有の事故を経た今、そしてまた、北海道から次々と引き上げていく大手のうしろ姿を見るにつけ、実はわれわれが「真のトップランナー」なのではないかと思えてきました。今こそ、命と人間への感受性を取り戻し、「地方創生」に意志を持って邁進する大学が必要に違いないからです。現在、本学は「公立化」に向け、市と協議に入ったところです。北海道は今、札幌への一極集中が加速しています。就職や進学で転入する「社会増」が札幌市は全国1位。このままでは、札幌を除いた地域は、経済も医療も福祉も立ちゆかなくなってしまいます。そこで、旭川大学を公立化し、学部を増やして総合大学化し、「地域のダム」になっていくという構想を描き始めました。新学部としては、TPPの時代に地元農村が落ち込まないよう、地場産業の6次産業化に貢献するような産業工芸系の学部を想定しています。旭川空港は、中国や韓国、台湾への定期便があり、北のゲートウェイとしての役割を十分担えます。旭川市を中心とした50万市民がこの地で幸福に暮らし、再生産していき、成長なしでも豊かな気持ちですごしていける「定常型社会」。その中心に、新生旭川大学があるというのが、私の思い描く青写真です。ところで、私は赤塚不二夫が大好きで、「これでいいのだ」というバカボンのパパの言葉は、いつも私を魔法のごとく救ってくれます。だから、私の合言葉はこうなのです。「村に帰ろう。これでいいのだ!」

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