カレッジマネジメント196号
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54「日本の大学は、きわめて時代おくれです。日本の社会も、世界の歴史も、急速に変化しているのに、大学がこれについてゆけない。」これは教育社会学者で文部大臣も務めた永井道雄氏の著書『大学の可能性』(中央公論社、1969)に記された一文である。大学紛争の最中であり現在と状況は大きく異なるが、「社会の変化についてゆけない大学」との認識は半世紀前も現在も変わらない。当時から改革の必要性は指摘されていたのである。その一方で、今日、改革を促す圧力は比べようもないくらいに増し、大学は急き立てられるように様々な改革施策に取り組んでいる。それによって大学に変化が生じているのか、それは望ましい変化なのか、仮に問題があるとしたら改革の進め方をどのように修正すればよいのかといった点について、十分な検討がなされているとはいえない。本来ならば、客観的な事実に基づいてこれらの問題を論じるべきだが、本稿でもそのような検証はできていない。個々の大学への訪問や研究会・セミナー等の機会に行った教職員との対話を基にしつつ、公表されている文書や調査研究報告等も参照して、これらの問題を整理し、本格的な検討に向けた課題提起を行うものである。教職員は大学の変化をどう捉えているのか様々な大学の教職員が集まる研究会やセミナーの冒頭に、「直近10年程度で自校がどう変わったか」を3つの選択肢を示して挙手で尋ねると、どの会でも、「良い方向に変わっている」が約3割、「良くない方向に変わっている」が約3割から4割、「あまり変わっていない」が約3割から4割という結果に落ち着く。参加者が持つ印象を尋ねただけの信頼性に乏しい方法だが、現場実感として改革を肯定的に捉えているのは3割程度ということになる。何をもって「良い方向に変わっている」とするのかは人によって異なるが、学部の新設・改組、国の補助事業の採択、新キャンパス・新施設の竣工、その他教学・経営上の新たな取り組み等、目に見える変化が生じている場合に肯定的に捉える傾向がある。また、これらの取り組みに対する自身の関与の度合いによって評価が異なる場合もある。例えば、自分が関わって一定の成果が出た場合は肯定的に捉えるが、関わる過程で強い抵抗にあったり、関わりが希薄だったりする場合は、否定的に捉える傾向があるようだ。主体的に関わり、小さくとも目に見える成果が出ることが気持ちを前向きにさせるのだろう。現場で生じている実際の変化を丁寧に見極めるじかに聞いた話で印象深いものを挙げて、より具体的な現場の実感を探ってみたい。教育改革に関して多く聞かれるのはグローバル人材育成に対する戸惑いである。「学習習慣もなく、日本語の文章も正しく書けない学生が多いのに、グローバル人大学を強くする「大学経営改革」現場と事実を直視し、改革の進め方を問い直す吉武博通 筑波大学 ビジネスサイエンス系教授リクルート カレッジマネジメント196 / Jan. - Feb. 2016「社会の変化についてゆけない大学」は本当か63

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