カレッジマネジメント197号
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35京大の研究室に月2回通い、教員や大学院生から直接指導を受けながら実験等を体験する。大学側からみれば、こうした機会は高校生の能力に直接触れる好機だ。高校生の能力を見ながら入試のあり方を考えることが必要だと思ったと山極総長は述べる。もう一つ、大学教育において教養教育がやや軽んじられるようになったことが指摘できると総長は言う。1990年代前半に教養部が解体されて以降、大学において教養教育を支える組織体制が弱体化した。1993年に教養部を廃止した京大でも、それまでの一般教育を担っていた教員が研究科に配属することとなった。さらに大学院重点化が進められたこともあり、学部教育なかんずく教養教育が軽視される傾向が生じた。そこに危機感を覚えた関係者は、教養教育をいかに立て直すか、議論を始めた。学内の議論は、教養部廃止のちょうど20年後、2013年4月に教養・共通教育の企画及び実施を担う「国際高等教育院」の設置に結実する。国際高等教育院の設置をめぐっては学内に慎重論もあったが、教養教育の改善の必要性の認識とその方向性はかなり早い段階で合意されていたという。こうしてみれば、高校教育と大学教育との結節点に位置づく大学入試が鍵となることは論を俟たない。そこに手を入れることで、高校・大学の両者に刺激を与えることが可能だ。「特色入試」は、高校教育から大学教育へ、生徒や学生の連続的な学びと育ちを実現する仕掛けだと言っていい。特色入試の設計思想の根底には、創立以来、京大が維持してきた教育に対する基本理念「対話を根幹とした自学自習」、それを基盤に培ってきた「自由の学風」が位置づいていると山極総長は強調する。京大は、1897(明治30)年、当時の帝国大学(現東京大学)に続く第二の帝国大学として創設された。京都帝大の創立には、明治国家の官僚養成を担っていた東京帝大の役割を補完する意味も込められていた。京都帝大の構想を作った西園寺公望は欧米の大学に学び、東京帝大とは違う大学として、当初から自由な研究、自由な思想を育む大学たることを目指した。その伝統が現代にも受け継がれていると山極総長は語る。ここで重要なのは、教育理念に掲げられた「対話」だ。単に「自由」というだけでは不十分だ。総合的な学力を持った者同士が対話をしながら領域を超えて自由に討論することこそが大切だ。一つの能力に秀でた学生が多くいるだけでは対話になりにくい。基礎的・総合的な学力を基盤に、教養教育を通じて多様な学問を横断しながら教養を高めていく、その中で独創的な精神、新しいことに挑戦する意欲が育まれるはずだと山極総長は言う。「対話」を通して学生を一貫して育てるという点では、高校教育の役割も見逃せない。高校の先生に向けてメッセージを出すとしたら、山極総長は「基礎的学力を担保したうえで個性重視をしてほしい。そのためには、高校の先生も大学の先生と対話をして引き出しを増やす必要がある。今世界で何が考えられているかを高校の段階からやれば、高校生の力も格段に伸びるはずだ」と期待を掛ける。もちろん、学生の教育を担う大学の責任も軽視できない。山極総長は、大学にもっと「生意気な学生」に入ってきてもらい、「従順な学生ではなく、常識を疑って世界観を独自に作ることができる学生を育てたい」と語る。そのためには、ドグマに陥らないように対話を続けていくことが必要だ。対話には、学生同士はもちろん、学生・教員間のそれも含まれる。京大では、特に研究の場において学生と教員は対等だという意識が強い。学生は教員の考えを鵜呑みにするのでなく、自分の考えを述べながら新たな考え方を提案していく。そんなフラットな関係性を構築しながら、分野を超えて異なる能力と出会い、対話を通じて「野生的で賢い学生」に育っていってほしいというのが総長の思いだ。だからこそ、特色入試では、学生の学ぶ意欲や志を尊重することに重きを置いている(図表1)。自ら学ぼうリクルート カレッジマネジメント197 / Mar. - Apr. 2016山極壽一  総長特集 相互選択型の入学者選抜へ図表1 受験生向け告知ポスター教育理念を根底とした入試設計

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