カレッジマネジメント197号
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45その意味でも、新たな入試改革の試みは、地域をテーマとしながら、高校での学習と大学での学修を結び付けようとするものであると評することができる。高校側の評判も好意的である。高校の教員からは、参加した生徒が「学びたいことが明確になった」といった感想を述べているという報告がなされているほか、「大学が高校生の進路意識の醸成に協力してくれている」という評価を受けるなど、生徒のみならず、高校との良好な関係性を築くきっかけとなっているという。なお、面談会は、入試の選考プロセスと明確に区別し、入試自体の公平性を担保するという意図から、学部に所属しない全学センター系教員と職員が担当している。事前に研修を受けた延べ62人の教職員が対応し、負担は決して軽くなかった。しかし、上記のような手ごたえを感じられていることから、現状では十分な成果が挙がっていると評価している。育成型入試の拡大を目指して最後に、今後、この地域貢献人材育成入試を含め、入試全体のあり方についてどのような展望を持っているのかについてうかがった。現在、島根大学では、地域という枠組みを超えた新たな入試の開発を目指して「高大接続事業」、「島根大学型育成入試」の2つの事業について検討を進めているという(図表3)。前者は、高校の地域課題学習やキャリア教育をサポートするなどの大学が実施する高大接続事業を通じて、高校生が主体的に考える力を身につけることを目的としたものである。後者は、文部科学省が進める高大接続改革を見据えつつ、島根大学の今後の入試のあり方について検討を行うというものである。特筆すべきは、教育・入試改革特別委員会という学内委員会において検討を進めるだけでなく、中国5県の教育委員会の代表、各県の校長、各学部の学部長によって構成される入試改革協議会において、高校側の意見を聴きながら、制度設計を行おうとしている点である。これらの議論を踏まえ、2021年度入試(2020年度実施)から新しい入試を導入する予定である。その際の目標は、地域貢献人材育成入試と同様の接続を重んじた多面的・総合的評価を行う入試による入学者定員を、全体の40%まで引き上げようという野心的なものである。こうした入試改革の狙いは、前述の地域貢献人材育成入試に通底する。即ち、多様な学生が入学することによって、キャンパスにおける学生の化学反応を期待しているのだ。服部学長は、「入試というのは、大学のメッセージを伝える格好の機会」と述べたうえで、「高校と大学とで一緒に生徒や学生を育てていくことが夢」だとする。また、「結局、高大接続は人」としつつ、「それぞれの立場だからこそ見える生徒の良い部分を、顔の見える関係性の中でやり取りすることが、円滑な高大接続に資する」と言う。数学を専門とする学長自身が「県内の数学の高校教員であれば、三分の一の顔が分かる」と言うほどに島根県はコンパクトである。「小さいからこそ島根大学にはできることがある」として、一層の連携に意欲を示す。島根大学では、前述の目標実現のために、2016年度に入学センターをアドミッションセンターと改組し、機能強化を図る予定だ。大学が入試に掛けるコストやパワーは非常に大きい。しかし、それでも地域貢献人材育成入試は島根大学にとって大きな挑戦であり、その成否は同大学における入試改革の試金石でもある。今後の展開を注視したい。リクルート カレッジマネジメント197 / Mar. - Apr. 2016(橋場 論 福岡大学教育開発支援機構 講師)特集 相互選択型の入学者選抜へ図表3 島根大学型育成入試の開発アドミッションセンターの設置(2016年度) 高校の地域課題学習、大学で実施する地域教育、市町村等とコラボレーションした交流会等をアクティブ・ラーニング型の学びとして実施し、高校生が主体的に考える力を育成する。 しまだい塾 高大接続事業 島根大学型育成入試 「教育・入試改革特別委員会」「入試改革協議会」の 設置 制度設計 2020年度実施 (2021年度入試) ●学内関係者 ●中国5県高校教員 ●中国5県教育委員会 会場型 WEB型

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