カレッジマネジメント197号
54/72

54リクルート カレッジマネジメント197 / Mar. - Apr. 2016ことによって、本来の学習コンテンツの習得が疎かになることにつながるという意味である。③FDとして機能しないことこれは形式偏重と関連する。既に述べてきた「①アクティブでない」と「②ラーニングがない」の2つが学生を育てようとする教育上の価値観であるのに対して、この③はALの存在価値に関わるような問題である。「ALよりも研究を進めたい」とか「講義のほうが多くの知識を伝えられるのにALは後退することではないか」「負担を増やすくせに何の見返りもない」等様々な理由をつけて、「やらされ感」とともに形式的にALを実施することになる。そうして形式偏重になった結果、自らのALがうまくいかない原因を、学内体制や教育行政、さらには授業協力者や学生のせいにする。これではFD(Faculty Development教授法改善)としての思考や行動には発展していかない。単位認定・成績評価の責任者としての教員自らの役割を考えたい。ただし、あまりにも全学的に推進しようとしたために失敗したAL事例もある。教員に対する適切な「教育負荷」のあり方は、学生の学修時間の確保に伴う「学習負荷」と同様に、ワークロード(workload)の問題として検討すべきであるかもしれない。以上の基本三事例が示唆することは、教員が学生と関わる指導や介入について過剰でも過少でもあってはならないということであり、ここにアクティブラーニングを進めるうえでの本質的な難しさがある。要はその適切なバランスなのだが、それは科目の学習目的により異なっている。一般には、その科目の学習目的が正しい知識を習得することであった場合、それだけ教員が介入すべき部分が増えることになる。同様に、目的が知識応用や思考を問うものになるにつれて、それだけ自主性を尊重する指導方針になるだろう。原因分析から構造分析へ先述の『AL失敗事例ハンドブック』では、失敗事例の紹介に際して、「原因(Cause)・行動(Action)・結果(Result)」とその対策・知識化を組立ての原則とした。ところがこの分析方法には限界があった。即ち、一般に原因分析といえば、「なぜ」を繰り返すことによって原因を深めて理解するというイメージを持ちやすい。しかし、もしAL失敗事例分析でこれをすると、最後は自己反省になるか、あるいは他者や体制の批判に帰着することになり、誰が失敗の元凶なのかの犯人探しとその押し付け合いになってしまう恐れがある。そこで、「構造(Structure)・行動(Conduct)・成果(Performance)」というSCPを分析ツールとして提案した。この方法の特徴は、原因を深めるというより、どんな要因がありうるかを構造分析することにより、多面的にあぶりだすところにある。失敗原因マンダラの用語一つを深く追求するのでなく、以下の5つの要因、即ち学生-能力面学生-志向面教員-能力面教員-志向面組織-能力面以上の構造要因を多面的に検討するのである。① 原因分析の落とし穴例えば、「グループワークで議論に参加せず何か上の空な態度で臨んだこと」を一つの事例に挙げてこのことを説明しよう。前者の原因分析により究明しようとすると、以下のようになる。上の空だった理由は<ア>遅れてきてグループワークについていけなかったから→<イ>その理由はいつもの電車に乗れなかったから→<ウ>その理由は昨晩遅くまでバイトして疲れて寝坊したから→<エ>その理由は交替シフトのメンバーが急遽休んだから→…。以上のようになる。<ウ>でストップすれば学生自身の寝坊が原因で、<エ>でストップすれば原因は他者のせいになる。一面を掘り下げているものの、FDの問題として捉えていない分析結果になってしまう。② 構造分析による多面的な理解これに対して、同じ事例について後者の方法で構造分析をすると、以下のようになる。上の空だった理由は、学生-能力面:自分の予習不足でしっかり理解できていない項目だったから。学生-志向面:昨晩遅くまでバイ

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 54

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です