カレッジマネジメント197号
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リクルート カレッジマネジメント197 / Mar. - Apr. 2016えで、その軸となるアドミッション・ポリシー(以下、「AP」とする)について、入試改革を担う現場の視点から考察したい。「形式的なAP」から「実質的なAP」への転換① 「形式的なAP」とは何か前述したようにアドミッション・ポリシーという用語が初めて登場したのは、1999年の「初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)」である。その中で受験生に求める能力・適性等の例示が示された(図表3)。多くの大学は、この表現を参考にそれぞれのAPを定めていったと思われる。そのため、各大学で定める「求める学生像」は、実際の受験生像とはかけ離れた「理想型AP」になっていることが多い。仮に、実際の入試において受験生全員が「求める学生像」に全く合致していないと判断されれば、全員を不合格としなければならないが、そうはなっていないのが実態だろう。「理想型AP」の例として、「教育目標で目指す人材像」を「求める学生像」に定めるケースが挙げられる。この場合、入試において「教育目標で目指す人材像」を持った学生を幸いにも獲得できたとしたら、その後の大学教育では何を育成するのだろうか。入学希望者に求めるものは、あくまで入学後のカリキュラムに適応するために必要な能力や適性等を示すべきであり、「教育目標で目指す人材像」とは分けて考えなければならない。また、APと実際の選抜方法が整合していないこと(「AP ≠Σ選抜方法」)も問題とされてきた。例えば、ある学部のAPが「社会に貢献しようとする積極的な意欲と行動力を持つとともに、柔軟な思考と豊かな発想力に富む学生を求めています」であったとして、実際の入試が、センター試験(5教科7科目)と個別学力検査(国語、英語)を実施している場合、「積極的な意欲と行動力」や「豊かな発想力」を入試で評価しているとは言い難い。「AP≠Σ選抜方法」は、少なくとも2つの問題点をもたらす。1つ目は、「APに沿った入学者の受入」の検証である。周知の通り、『大学機関別認証評価』(大学評価・学位授与機構)の「基準4 学生の受入」では、「入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)が明確に定められ、それに沿って、適切な学生の受入が実施されていること」が重要な評価指標となっている。こうした検証作業を行う際に、APで示す能力や適性等を評価する入試になっていなければ検証は難しい。2つ目は、受験生や彼らを指導する高校教諭は、実際の出題内容や評価方法をみて、「このような問題を解ける生徒を求めているのか」「このような実績や活動を持っている生徒が欲しいのか」と判断しており、実際の出題内容や評価方法を「実質的なAP」として捉えている。そうなれば、大学が苦労して作ったAPは「形式的」なものとして認識されているにすぎない。これは入試制度の仕組みが影響していると考えられる。APに沿った選考を前提にしてきた米国の入試では、高校の成績やエッセイ、SATやACTのスコアといった書類審査が中心である。そのため、それぞれの大学が独自に学力検査等の個別試験を実施することは基本的にない。個別試験がないが故に、求める能力や水準等を具体的に示すAPを定めなければ、志願者が出願の際に混乱してしまうという背景がある。わが国においてAPという概念が一般的でなかった時代に、慶應義塾大学(SFC)で初めてAO入試が導入されたとき、いわゆるAPといえるものを示したのは、同入試を実施するうえで不可欠であったからであろう。一方で、わが国の伝統的な入試制度では、各大学が独自に個別試験を実施し、実際の入試問題や評価手法に対して「これくらいの問題は解いてほしい」「これについては知っていてほしい」といったメッセージを暗に込めることで個別試験が実質的なAPの役割を果たしてきた。このため、改めてAPを示す必要がなかったのではないかと考えられる。しかしながら、高等教育のユニバーサル化に伴い、受験生と大学のマッチングが求められるようになった。実際の入試問題や評価手法だけでメッセージを伝えるだけでなく、ディプロマ・ポリシー「例えば、当該大学(学部・学科)の教育理念や教育内容をよく理解した上で、より高いレベルでの自己実現を図ろうとする情熱と明確な志望を持った学生や、十分な基礎学力を有し、かつ問題探究心・学習意欲・人間性に優れ、将来研究者となることに熱意と適性を有する学生」図表3「初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)」の抜粋

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