カレッジマネジメント198号
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10現在、10年に一度の学習指導要領改訂の担当をしている(今年度中央教育審議会で答申がまとまれば、高校は2022年度から完全実施の予定)。現在46歳の中堅世代である私は「ゆとりと充実」を標榜した1977年改訂の学習指導要領で育まれたことを考えると、改訂に当たっては、30~40年後の社会を構想することが求められると改めて実感している。2050年には、わが国や世界はどんな姿をしているだろうか。目の前の子どもや若者はどんな社会を創造しているだろうか。そして、今、学校や大学には、どのような教育を行うことが求められているのだろうか。1960年代においては、高等専門学校制度の創設、工業高校や高校理数科の設置促進、理工系学生増募計画等、工業化社会という未来社会のイメージに向けた明快なマンパワーポリシーが展開された。しかし、それから半世紀経った今、このような教育政策は成立可能なのだろうか。経済産業省の「わが国企業の国際競争ポジションの定量的調査」にある通り、成熟社会・知識社会であるわが国の産業構造は予測する間もなく短い期間で大きく塗り替わる。先日、経済産業省の担当課長と未来の社会や産業構造と学校教育のあり方について議論する機会があった。共有できたのは、第四次産業革命・インダストリー4.0・ビッグデータ・人工知能・地方創生・ローカル経済と労働生産性といった未来社会を語るキーワードは、未来を具体的に予測するものではなく、「未来を予測する最善の方法は、自らそれを創り出すことである」(アラン・ケイ)。だからこそ、これからの子ども達には、現在の社会で必要な知識の習得にとどまるのではなく、新しい社会構造を創り出す力が求められていることであった。未来社会は、このような力を育成する教育が社会をリードする時代と言えよう。未来社会を創造する資質・能力我が国の子ども達が競争しながら共存しなければならない相手は、異なる言語や文化・価値観の中で育まれている海外の子ども達だ。新しいアイデアや知識の創出で、世界と激しく競い合う研究者や起業家・企業人が求められるのはもちろんであるが、他方、わが国経済の伸びしろはローカル経済にこそある。ミドルスキルを身に付け、社会をしっかりと支える安定したボリュームゾーンは、ローカル経済と公正な成熟社会の基盤である。効率か公正かといった単純な二元論を超えて考え抜き、年齢や文化・言語・意見の異なる他者と議論を重ね、「納得解」を導き出す能力は、国際社会や国全体のガバナンスだけではなく、成熟した市民社会における地域への参画でも求められている。他者の意見や考えなどをしっかりと理解・吟味し、自らの意見を論理的に構成したうえで表現し、また他者とリクルート カレッジマネジメント198 / May - Jun. 2016未来社会を創造する資質・能力と高大接続システム改革合田哲雄 文部科学省 初等中等教育局 教育課程課長2050年の世界

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