カレッジマネジメント198号
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33来の課題研究の手法の流れを汲みながら、チームでチャレンジし、実行する「プロジェクト型学習(PBL)」を実践していくものだ。プロジェクト工学科(工業科)の「ものづくり分野」「まちづくり分野」を軸に、これからの社会が工学の専門技術に期待するエコロジー、ユニバーサルデザイン、防災・減災といったテーマに挑む。また、特に1年生のプロジェクトZEROでは、宇宙へのアプローチも活動の視野に入れている(図表1参照)。その取り組みテーマも、生徒達が興味を持ち、挑戦してみたくなるリアルなものだ。まさに「社会とのつながり」と「生徒達の興味」を結びつけるもの。こうした社会の課題は、1つの技術、1人の力だけで解決することは難しい。その問題解決のために、様々な専門分野の力やアイデアを結集し、形にしていく。そのプロセスの中で「つくる楽しさ」「工夫する喜び」「一緒に取り組む面白さ」そして、社会に役立つ技術を生み出す意義=「貢献」の大切さを生徒達自身が学んでいく。一方、「STEM(ステム)教育」は、アメリカでも推進されている「科学・技術・工学・数学の一体教育」である。科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の頭文字を組み合わせた言葉だが、関連性の非常に高い4つの分野を一体的に学ぶことで、新たな発見や柔軟な発想力、問題解決力を身につけさせる。従来の工業系学習、理数系学習を融合し、既存の枠組みをはずした新しい教育の取り組みといえる。教育機関としてどのような存在になっていきたいのか、有本先生は将来像への想いを語ってくれた。「従来の工業高校等の職業高校に対する評価に疑問を感じています。普通高校が上、職業高校が下という垂直型の進路選択のあり方を変えたい。我々の取り組みは、普通科高校以上の教育水準を持つ工学系高校を創り出し、そのステータスを上げたい。そして、科学技術が未来を変えていくという本来的な役割の中で、日本の産業構造へも影響を与えていくような人材を育てていきたいですね」。教育機関の使命とは「どんな人材を育てるか」に尽きる。社会や地域に貢献し、より良い未来を切り拓いていける人間を育てる場所なのだ。入試のための高等学校であってはならないし、「学びたいことがあるから入学したい」存在でなければならないはずだ。京都工学院高校には、「貢献、結集、連携、継続」という4つのキーワードがある。「地域や社会へ貢献する、全生徒・全先生の力を結集する、大学・企業・地域と連携する、学年を超えて継続し発展させる。我々の教育には完成というゴールはなく、常に生徒達と一丸となって進化し続ける必要があると思っています」と砂田校長は語る。2人のキーマンが挑む世界は、日本のものづくりのあり方へのチャレンジなのだ。一期生を目指して面談に来たある生徒が放った言葉を一生忘れられないという。「自分がこの学校に入学して“文化”を創りたい」この言葉の中に全ての答えが含まれているのではないだろうか。若い世代が自らの手で新しい文化を創る。この意志の創造こそが、チャレンジする教育の価値なのだ。進路のあり方に革命を起こし、産業構造を変えていきたい進路のあり方に革命を起こし、産業構造を変えていきたいリクルート カレッジマネジメント198 / May - Jun. 2016(西山俊哉 ライター)ものづくり 分野 まちづくり 分野 宇宙へのアプローチ エコロジー 貢献 ユニバーサルデザイン 防災・減災 エネルギー 未知への挑戦 図表1「プロジェクトゼミ」の具体的な取り組みテーマ例 ●JAXAとの連携 ●主に1年生のプロジェクトZERO [ ] ◆地域ニーズによる省電力装置(風力・太陽光)の開発 ◆社会に役立つロボットの開発(防災・美化など) ◆省電力ラジコンカーの開発 ◆高齢者に役立つグッズの開発(ユニバーサルデザイン) ◆地域ブランドの創出(「伏見稲荷」、観光都市・京都) ◆人工知能搭載ロボットの活用方法の研究 ◆小・中学生に宇宙の面白さを伝える教室の企画・開催 ◆JAXA人工衛星の設計への協力 ◆衛星データの社会での活用方法の検討 (GPS、気象情報など) ◆ハイブリッド・ロケットの研究 ◆地域防災・安全マップの作成・活用 ◆学校周辺の竹林の活用(廃材の商品化) ◆地域の緑地・農地の整備支援 ◆高齢者に優しい地域づくり  (ユニバーサルデザイン) ◆NPO事業(地元整備)への参画 ◆豊かなまちづくりへの貢献  (橋梁模型の作成・測量技術の向上など) 特集 高大接続改革への「高校の挑戦」有本淳一 先生砂田浩彰 校長

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