カレッジマネジメント198号
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61リクルート カレッジマネジメント198 / May - Jun. 2016整備すること、である。具体的には、資格制度、給与制度、研修制度、評価制度という4つの改革の柱を立て、それらをトータルな人事制度として確立することを目指している。このうち資格制度については、従来の6等級を10等級に増やし、資格取得可能な最低年齢からすぐに本俸が枝分かれする給与体系に改め、キャリア形成や職務に対する意欲の喚起を図っている。資格要件を満たせば、役職者の欠員状況等にかかわらず、かつより短期間で上位資格に昇格できることから、特に若い世代を中心に意欲の向上につながっているという。また、この改革により、職員の給与総額を変えることなく、職員数の20人増員を実現している。龍谷大学のケースを通して学ぶこと龍谷大学のケースから職員育成に関する多くの示唆を得ることができる。まず、大学をより良き方向に進める変革プロセスの中で、職員が主体的な役割を果たすことを通して、職員の成長と大学の発展の相互作用が生まれるという点である。龍谷大学の場合、5次にわたる長期計画の策定と推進のプロセスが、この相互作用を促進する場となり仕掛けとなった。ただ、計画のための計画では、このような相互作用は期待できない。計画を推進することで、実際に大学がより良い方向に進む、真に実効性のある計画でなければならない。そのためには、教学上の諸施策に係る計画と、財政、施設・設備、人事など経営資源に係る計画を結びつけることが不可欠である。この点において、龍谷大学の長期計画は綿密であり、完成度の高いものと評することができる。職員が担う役割や機能を明確に認識することも重要である。財務や施設など経営に係る業務は職員が主体的に担い、教学に係る業務については確かな知識と技能で、教員を支え又は教員と協働するといった関係を確立する必要がある。龍谷大学でも教学に関する全学レベルの会議には必ず構成員として職員が加わっている。これにより審議が円滑に進み、実行も担保されるという。そのためにも、体系的な知識、物事の本質を理解する思考力、職務遂行に必要な技能などを身につけ、これらの能力を高め続けていかなければならない。特に、キャリアの早い時点で貪欲に学ぶ姿勢や習慣が根づくように、仕事を通して学び、上司や先輩の薫陶で気づき励まされ、研修の機会も得られるといった環境を整えることが大切である。職員の意欲と能力を高め、これらを職務において存分に発揮させるためにも人事制度は極めて重要である。年功序列的な処遇を続けている大学も多いと思われる。自らの能力を向上させ、組織に貢献しているにもかかわらず適切な処遇を受けず、経験年数を重ねただけの者が優遇されているとすれば、大学として大きな損失である。労働条件の不利益変更などの問題に十分に配慮した上で、人事制度改革に取り組むべきである。危機意識がなくなれば変革のエネルギーも先細る当然だが龍谷大学にも課題はある。人事を担当する総務部の内藤恒義次長は、「きっかけを与えても全員が期待通りになるとは限らない。だからこそ採用に力を入れている。また、上司や先輩の背中を見て育てと言って済む時代ではない。部下を育てることが苦手な管理職もいる。部下の育て方を学ぶための研修機会なども必要だと思う」と話す。岡田雄介学長室(企画推進)課長は、「これからのマイナス成長の時代、所属組織や立場にかかわらず、エビデンスを積み上げながら堂々と議論できる職員が育ってほしい。どの世代にも組織を逞しく牽引する人材がいるようにしたい」と語る。その思いを実現するため、自己研鑽型研修として、10人の若手職員で構成する「龍谷未来塾」を立ち上げ、コーディネーターとして支援している。危機意識がなくなれば変革のエネルギーも先細りする。内藤氏や岡田氏の危機意識は原田氏や長野氏から受け継ぐDNAでもある。長野氏は退職を前にした事務職員会での講演をこう締め括った。「私自身、約半世紀にわたる龍大人生を振り返り、心底『ああ、有り難かった』、『楽しかった』と思えるのです。こんな幸せなことはありません」。

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