カレッジマネジメント198号
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リクルート カレッジマネジメント198 / May - Jun. 2016らに伸びていく可能性があるということだ。そして、知識を行動へと発展させるために必要なのが、円状の部分。個人や人間関係、社会が良好な状態にあること(well-being)、そして、私達が今後検討するメタ・コンピテンシー(meta competencies 自律的に行動するなどの主要能力)である。well-beingに関しては、行動のために必要な状態・環境であると同時に、行動の結果として獲得されるものでもあると考えている。例えば、子ども達の肥満といった健康の問題や、貧困による教育格差の問題等だ。メタ・コンピテンシーに関しては、私達がキー・コンピテンシーとして掲げている「社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力」「多様な集団における人間関係形成能力」「自立的に行動する能力」等を未来からのデマンドに則って、今後見直していくことになる。「解のない課題」に取り組むにはエモーショナルな力こそが重要に図表3は、2030年の社会を生きていくために必要な力を、どう教えていくべきかという観点から整理したものだ。ピラミッドの土台にあるのは教科ごとの知識やそれを活用する技能(Disciplinary/practical use)。これは今までの教育でもずっと教えてきた部分だ。その上に載っているのが、クリティカルシンキングやクリエイティビティ等の、活用力・応用力(Cognitive)。そして、ピラミッドの一番上に来るのが、エモーショナルな力(Emotional)である。このエモーショナルな力とは、単なる感情の浮き沈みのことではなく、根底に価値観があり、その上に態度や資質等が構築される「人格」や「人間性」に相当するものだ。新しいものを生み出したり、解がない課題に取り組むためには、何が社会にとって良いことであるかを判断する力が非常に重要となる。知識・技能や応用力が十分に備わっていても、エモーショナルな力が欠けていれば良い結果にはつながらないからだ。同時に、エモーショナルな力は教えることが非常に難しい。例えば、東日本大震災の被災地の復興を考えるとき、人が数人しか住んでいない村を元のように復旧するのがいいのか、より人口の多い地域に移住してもらってそこに財源を集中的に投入するのがいいのか──。これは単に経済効率だけでは答えが出せない問題であり、エモーショナルな力も加えて意思決定をしていかなければならない。先生にとっては、一つの正解を教えるより遙かに難しいテーマである。具体的な取り組みは、各国で行われている。例えばドイツでは「倫理」、フランスでは「哲学」といった教科で、社会的な価値や正義について生徒達が話し合う時間を設けている。日本では「道徳」が相当するだろう。また、教科の中で、例えば国語の授業で解のないテーマについて議論する等の方法も採られている。そしてもう一つが、学校の外での学びである。地域でのボランティア活動やスポーツ・文化活動、さらに家庭教育を通して育まれるものも非常に大きい。子ども達は感じ、体験する中でエモーショナルな力を高めてい図表2 “行動”を生み出すに至る知識・技能・コンピテンシー等の相関関係各教科等で身につけることが できる「知識」 “自立的に行動する力”等の 「主要能力」 個人・人間関係・社会が 良好な状態であること 知識を応用するための思考力や 社会的能力等 モラル、価値観、態度等の 「人格」「人間性」 行動

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