カレッジマネジメント199号
56/70

56だ。「だから、モビリティが確保されているかどうかのほうが大きいんです。そうした中で、会津大学の卒業生が『IT会社で』ではなく『IT業界で』生き残っていくのが、われわれとして目指すところです」。モビリティが高い業界でキャリアを積み上げていくには、「会社で」ではなく「業界で」通用する技術力に加えて、何らかの心構えが重要だろう。「基本的には自分を訓練するというルーティンを持っているかどうか。過去にやったことで飯を食うのではなくて、現在のアクティビティで、飯を食ったり勉強をしたり、それが大事です。状態で食べず、行動で食べる。飯を食う仕事と同時に、次のステップのためのポテンシャルを高めることを日常的にやらなければいけない。そういう意味でITには、飯の食い方に厳しさがある。技術革新や社会の変化に対応した自己研鑽が必要なのです」。自覚的にポテンシャルを上げる努力の必要性とその方法、飯の食い方の厳しさ等を、在学中にどう伝えていけるかも、大学におけるキャリア開発支援の一環と言えるだろう。これは組織的に行うことの難しい、属人的な領域だと岡学長は言う。そこで大きな役割を果たすのが、卒業生だ。「例えば設計・スペックといった上流と、コーディングする下流と、両方必要だということ。スペックを決めるほうは、下流のコーディングを知らないとできないし、下のほうは上を見ないと変化の激しい業界で、先輩から学ぶ駄目だと。だからプログラミングだけじゃなくて、設計の訓練とか、少なくとも関心を持っておいたほうがいいよと。そんな話を、花見に来たときなんかに卒業生がしてくれるのです」。「あと、卒論のときではなくて1年生から、研究室に入れと言っているのですよ。なぜかというと、1年生から4年生へ大きく成長する。上から見るとそんなに差が見えないですけど、1年生から見ると差がある。この差に早めに気づいてほしいのです。研究室に入って、部屋の片隅に机をもらってパソコンをもらって。上の先輩を見たり、耳学問したりしますよね。分からなくてもディスカッションに出たり、隣で何か話している中に、聞いたことがないキーワードが入ってきて、それが時代の最先端の内容だったり。プログラミングのいろいろなテクニックを教えてもらったりして。そうすると、効率的に最先端に行けるのですよ。ただ、そういうことに対して当人が持っているある種の感受性がないとなかなかですね。これは大学に来る前の生育歴ですよ。頭がいいとか悪いとか、そういう世界ではないですね」。今後の展望について、1つの目標として岡学長があげたのは、学部留学生の受け入れ拡大だ。従来、海外からの留学生の多い大学院だけでなく、学部にも留学生を増やしていくという目標だ。そのためにベトナム、中国等と協定を結んでいる。また、会津大学(学部)から大学院へ課題は学部以降の研究や勉強の厚みの進学率は30%。理系では普通6割から7割、9割も珍しくはないので、これはちょっと低い。大学院に進む日本人学生を増やすことがもう1つの目標と言える。「国際会議や学会に行ってみますと、発表の7〜8割はドクターコースの学生、あるいはポスドクの学生です。今の主流のマンパワー、研究における主体はドクターの学生です。ドクターコースの学生さんは学位をとるために必死に頑張ります。そういう意味でも大学院、さらにはドクターコースに進む日本人学生も増やしたいですね。残念なことに、有名な国際会議で日本人の名前はちらほらあるかないかの世界です。多いのは中国系ですね。あとはベトナムとかインドとかですね。完全に日本は負けています。情報系でも、トラックで言うと2〜3周遅れています。これで日本がITだのAIだの言っても、勝てると私はとても思えない。それほど、大学以降の研究や勉強の厚みが圧倒的に少ない。もちろん学会の発表は即産業とは結びつきませんけれども、産業の基盤になるポテンシャルを示している。情報は応用も基礎もないのですよ。基礎が即応用になるのです。研究の厚みを深めない限り、産業の展開は苦しい」。「基礎が即応用」は、「学ぶと働くが直結している」と言い換えることもできるだろうか。プロとアマチュアの違いが大きいというITの世界で、「学ぶ」においても「働く」においてもプロになれる人材をいかに輩出していくか。それが岡学長の示した課題と受け止めた。リクルート カレッジマネジメント199 / Jul. - Aug. 2016(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 56

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です