カレッジマネジメント199号
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60AI(人工知能:Articial Intelligence)を巡る話題が連日メディアを賑わすようになってきた。スーパーコンピュータがチェスの世界チャンピオンを勝利したのは1997年。近年は、将棋ソフトがプロ棋士に勝利し続けている。約10の360乗通りの組み合せがある囲碁で、コンピュータが人間に勝つのはまだ先と考えられていたが、2016年3月、グーグル・ディープマインド社が開発した人工知能「アルファ碁」が世界最強のプロ棋士を破るという衝撃的な出来事が起こっている。世界の金融市場では、人間の指示がなくてもAIが株価動向等を学習し、推論を立てて、自動的に売買判断を行うというファンドも増えており、運用成績も堅調という。米IBMが開発した「IBMワトソン」も急速に用途を拡大している。「自然言語処理と機械学習を使用して、大量の非構造化データから洞察を明らかにするテクノロジー・プラットフォーム」(日本IBMの公式ページより)と説明されるワトソンが、アメリカの人気クイズ番組で、二人の歴代チャンピオンを破ったことは大きな話題になった。クイズ挑戦に備えて、ワトソンは100万冊の本を読み込んだという。ワトソンの利用は日本でも始まっている。東京大学医科学研究所は、日本IBMと共同で、がん細胞のゲノム情報を読み取り、膨大な研究論文や臨床試験情報等を参照しながら、個々の患者に最適な治療法を医師に提示するシステムの開発を進めている。三菱東京UFJ銀行は、LINE公式アカウント上で提供している「Q&Aサービス」にワトソンを活用することで、仮に曖昧な質問であっても、質問者の意図を理解して回答するシステムの運用を開始している。コンピュータが自ら質疑内容を分析し、学習していくことで回答の精度を高めることができるという。また、かんぽ生命は、保険金支払審査にワトソンを導入している。過去のケースを調べたり、先輩社員に聞いたりしなくても、顧客に回答する内容と理由が分かるようになるため、経験の浅い担当者でも査定を効率的に行うことができるという。大学に関わる領域でのAI開発としては、国立情報学研究所のプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」が知られている。2016年までに大学入試センター試験で高得点をマークすること、2021年に東京大学入試を突破することを目標に研究が進められている。2013年には大手予備校のセンター模試で、約800校ある大学のうち約400校で合格可能性80%を達成する等の結果を示している。AIの研究・開発・応用で先行するのはアメリカである。グーグルはAIの技術開発を牽引する人材を獲得するために多額の資金を投じ、企業買収を行うとともに、2017AIを中心とする第4次産業革命は成長戦略の柱大学を強くする「大学経営改革」AI(人工知能)がもたらす変化に大学はどう向き合うべきか吉武博通 筑波大学 ビジネスサイエンス系教授リクルート カレッジマネジメント199 / Jul. - Aug. 2016社会の様々な分野でAIの利用が急速に広がる66

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