カレッジマネジメント200号
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本誌の創刊号が刊行されたのは、1983年7月のことだという。今から33年前のことになる。編集部の調べによると、この創刊号にはほかならぬ小生が一文を寄せているという。何を書いているのか、そのコピーを送ってもらったところ「18歳人口の推移と高等教育人口の展望」なる一文を寄稿している。33年前の自分と出会うことは、懐かしさ2割、気恥かしさ8割。かすかな記憶をたどりながら思い起こしてみると、その当時、話題となっていたのは将来起こる18歳人口の減少問題であった。やがて18歳人口の減少期がくる。その時大学はどういう運命に晒されることになるのか。それが話題となり始めていた。あたかもその頃のアメリカは、まさに18歳人口の減少期のまっただなかにあった。かなりの大学が閉鎖に追い込まれ、当時のNHKが学生が来なくなり、無人の廃墟と化したカレッジの様子を映像で流していた。それは将来の日本の大学を暗示しているように思えた。しかしアメリカの場合、18歳人口の減少は先が見えており、1995年からは再び18歳人口の増加が始まることが明らかになっていた。これに対して日本の場合、少なくとも1992年めがけて18歳人口が増加するが、それを過ぎると今度は一転して減少期に入ることが既に明らかになっていた。つまりこの論文執筆の1983年時点から眺めれば、今後8年間は増加するが、そのあとに減少期が控えていることになる。ただその18歳人口の減少がいつまで続くのか、その先が見えなかった。年々報告される出生数は減少の一路をたどっていた。出生数が減少すれば当然のことながら18年後の18歳人口は減少する。しかし人々の知りたい点は、日本の出生数がいつになったら持ち直すのかだった。今でこそ少子化、晩婚化、非婚化、草食化が話題にされ、社会問題化、政治問題化されているが、1983年当時はまだそれほど騒がれてはいなかった。それだけでなく、そもそも権威ある政府機関の発表する出生数の推計値が毎年外れる状態が続いていた。その機関はやがて出生数が上向くとの推計結果を発表していたが、その推計値は年々現実によって裏切られていた。世間はこの権威ある政府機関の推計をどこまで信じたらよいのか迷っていた。しかしこうした迷いを抱えていたのは一部の人間だけで、世の中は年々増加を続ける18歳人口を大いに歓迎していた。その当時、ある大学経営者が受験会場に押し掛ける受験生の顔が、みな札束にみえると告白したことを今でも記憶している。それ以来、規制緩和があり、臨時定員増があり、大学の増設・拡張が起こった。新たな学部・学科の新増設が行われ、今まで聞いたこともない学部・学科が登場した。中には「果たしてまじめに考えているのか」と疑われるような名称を冠した学部・学科が出現した。入試方法を多様化し、「選抜」・「選考」を放棄し、実質的にオープン・アドミッションをとるところも登場した。その結果、今では40%の大学が定員を割り込んでいるという。30年前閉鎖に追い込まれたアメリカの大学の中には、見事に復活を果たしたところもあるし、とうとう浮上することのできなかった大学もあるという。悪貨が良貨を駆逐するのか、良貨が悪貨を駆逐するのか、いよいよその正念場に立たされる局面に達した。200号記念に寄せて潮木守一名古屋大学・桜美林大学名誉教授

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