カレッジマネジメント200号
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6リクルート カレッジマネジメント200 / Sep. - Oct. 2016留学させるという制度を取り入れました。しかも英語圏に限らず10か国に派遣します。実務的には困難な作業ですが、それをやり遂げて教育が大変良くなりましたし、そうした取り組みを他学部も取り入れ始めました。本学は15学部ありますが、そうした学部独自の取り組みがあちこちで起きています。また、以前はお互いに何をやっているのかよくわかりませんでしたが、自己点検懇談会という組織を作り、自分の学部でやっていることを発表する機会があります。その結果、刺激を受けて自分たちの学部も何とかしようという空気が出来上がっています。 新しいことをやろうとすれば、当然不都合だという意見も出てきます。そうした意見をちゃんと聞いたうえで、折り合いのつく方法を再提案する等、言葉を磨きながら納得してもらうやりとりを心掛けています。ただし、15人の学部長が相手ですから、スピードという問題はあります。しかし、総長がトップダウンで決定したことについて、実際の現場で問題が発生し、そのやり方はまずいということになると、結局はスピードが遅くなるのです。それを考えると、相手の異論を踏まえて話し合い、納得してもらったほうが速いのではないかと考えています。近藤 2004年に国立大学が一斉に法人化し、同じ年に公立大学も法人化を選択できるようになりました。北九州市立大学は2005年に法人化しています。この法人化の時に、既に今回の法改正によるガバナンス改革に取り組み始めました。法人化に至る過程で、法人化にはどういうメリットがあるのかについてはかなり議論しました。それまでは設置団体の北九州市の一部局でしたから、市議会での承認がなければ決まらないことが多くあったのです。一方、法人化をすれば、大学の裁量の範囲が大きくなります。このため、大学で何を決め、どんな成果が求められるのかについて話し合いました。大学運営において大事なのは人事と予算です。そこでまず、人事や予算等について、学部教授会ではなく、教育研究審議会で審議することにしました。また、私が学長になった第2期(2011年〜)には、更に一歩進めて、予算方針会議、組織・人事委員会を設置し、全学的な方針については、そこで決めていくことにしました。 教員評価にも取り組んでいます。しかし、この制度を導入した時に、評価する学部長・学長は誰が評価するのかという意見もありました。これを受けて、学部長評価・学長評価を導入することにしたのです。初めて学長を評価する規程を作り、私も一昨年学長評価を受けました。学長選考委員会とは別に新たに学長を評価する委員会を作り、学外の評価委員を中心にして実施しました。今年度からは、学長が評価者となる学部長評価も導入します。評価をどう活用するかの問題もありますが、評価結果によって何かを下げるという減点主義ではなく、良い点をもっと伸ばすというポジティブな評価システムとして、構成員全員できちんと自己点検できる仕組みを作ろうと考えています。ガバナンスの変容司会 法律が変わり、学長のガバナンスはどのように変わってきたのでしょうか。吉武 国公立大学の場合は今回の法改正より、2004年の国立大学法人法以降からの変化が大きいと思います。そうした意味で、今回の改正では私立大学が大きな影響を受けることになるかもしれません。ただ懸念しているのは、ガバナンスと言うと必ず、学長のリーダーシップとはイコールトップダウンだと考える学長が出てくることです。田中総長のような考えを持っている方であれば良いのですが、ガバナンス=リーダーシップ=トップダウンという図式になってしまうと、反発も生まれますし、大学としては不幸なことになってしまいます。教員や職員も納得しない限り、良い仕事はしないものです。納得するプロセスをどうやって作り上げていくのか、ある意味では多少時間がかかっても丁寧にやっていくことが大学ガバナンスの一つのポイントだと思います。 また、全学一体だと強調し、求心力を高めようとする風潮も行き過ぎると問題です。例えば大手企業の場合は事業部制を敷いて、いかに事業部に権限委譲してエンパワーするかに注力しています。せっかく学部や研究科という部局があるわけですから、学部長や研究科長に一定の責任を持たせて任せることは大変意味があることだと思います。全体として、リーダーシップや全学一体を強調しすぎる大学と、役割と責任を明確にしながら上手にやっている大学とに分かれている印象があります。

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