カレッジマネジメント201号
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47見ることもできる。言うまでもなく、教育機関である大学と営利組織である企業との間には、埋まることのない溝がある。「入試と就活を一緒にするのか」という声も聞こえてきそうだ。だとしても、両者の距離ばかりを意識して、類似点に目を向けないのは、あまりに勿体ないことであるように思われる。さらに付け加えれば、この類似点は日本社会ならではのものだというところもある。濱口桂一郎氏の著書『若者と労働――「入社」の仕組みから解きほぐす』(中央公論新社、2013年)によれば、多くの先進諸国が、職務ごとに仕事内容や範囲などを定め、新しい職務や欠員が発生するたびに即戦力を求める「ジョブ型」の人材調達を試みるのに対し、日本は、あらゆる職務を担う可塑性の高さを求める「メンバーシップ型」の採用を行っている。言い換えれば、訓練可能性や汎用的能力といった「見えにくいもの」を重視した採用活動を重ねているのが日本企業であり、しかもその代表的な手法が「面接」である。多面的・総合的評価という文脈で参考になる部分は少なくないように考えられるのだ。断っておけば、企業にヒントを求める視点はオリジナルというわけではない。折しも半年ほど前、本誌197号に竹内淳一氏(株式会社リクルートキャリア)による「企業の採用活動から見た『相互選択型入試』の可能性」という記事が掲載された(2016年Mar.-Apr.)。採用活動の特徴を詳しく紹介したこの記事は、結論として、組織の個性を人材要件に込め、それを一貫した基準にして適合性の高い人材を選ぶことが、企業から援用できる入試改革のポイントだと指摘する。合わせて、2014年12月22日の中教審答申を取り上げた次の新聞記事も参考になろう――「現行の2次試験にあたる大学の個別試験も多面的、総合的な受験生の評価手法を求めた」「具体策として小論文や面接、集団討論、高校の調査書などを活用し、『人が人を選ぶ』試験への転換を促した。中教審委員の1人は『大学入試は、様々な観点から人材を評価する民間企業の採用手法に近づく』と説明する」(2014/12/23 日本経済新聞朝刊3ページ)。2つの反論多面的・総合的な評価が、企業の採用活動のようなものだというのは、改革へのアクセルが踏まれた当初から、一部関係者の間で意識されていたことなのかもしれない。ただ、ここまでの議論をもってしても、企業の採用活動を参照しようという気分にならない人は少なくないように思う。無理からぬことでもあろう。というのは、容易に思いつく次のような反論に対して、十分な回答が示されないまま、現在に至っているからだ。《反論1》企業の採用活動は大学入試と同じプロセスを経ているのかもしれない。けれども、企業は基本的に多くの応募者のなかから一部の優れた人を選ぶという条件で選抜を行っているのではないか。大学は違う。ほとんどの受験生を合格させるという推薦・AO入試をしているところも多い。また、企業は人事課を中心に多くの労力を費やして準備をし、時間をかけた面接で採用するかどうかを決めているではないか。この点についても大学は違う。突如として面接官の役割を担った教員が、受験生一人当たり10〜15分ほどの面接で合否を決める。このような条件リクルート カレッジマネジメント201 / Nov. - Dec. 2016図表1 企業の採用活動プロセス求める人物像の明確化採用広報説明会・セミナーリクルーター書類選考・適性検査面接内定・内定者フォロー入社前教育採用計画・母集団形成入社動機の形成選考内定・入社までの準備

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