カレッジマネジメント202号
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25リクルート カレッジマネジメント202 / Jan. - Feb. 2017(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)部活動の部長を務める職員も多く、学生との距離が近いことで学生の情報も入りやすい。リエゾンゼミは、できる限り若手の教職員が担当し、さらにピアメンターも加わる等、初年次学生に配慮した手厚いサポート体制が意識的に採用されている。全学挙げて初年次学生を指導・支援しているという印象だ。こうした取り組みが直接に影響したかどうかは精査が必要だが、中退防止対策会議の資料によると、初年次の退学者数がやや減少傾向にあることが読み取れる(図表3)。学生全体で見れば、同じ期間1.36~1.85%で推移していて初年次学生の推移とは一致しないが、今後初年次生の動向が全体の状況を好転させる可能性もある。高度化・複雑化する学生支援現場現在の大学には、中退防止に限らず、問題や悩みを抱えた学生をどう見つけ、どうケアするのかが問われている。この課題は今後ますます大きくなるはずだ。それに向けた仕掛けとして、福祉大のように情報共有体制の強化や初年次教育の充実があるが、より本質的には、厚生補導から学生支援への転換が進んでいることに目を向ける必要があろう。福祉大が学生課を学生生活支援課に名前を変えたのは7年ほど前だ。大野課長は、学生生活支援課には伝統的な厚生補導の機能と近年ニーズの高まる学生支援の機能があるが、後者の比重が高まっていると述べる。長く学生支援の現場に立ってきた大野課長の目には、近年急速に学生の質が変わってきたように見える。高校までの経験が乏しい学生が増え、相応の対応が求められるようになった。指導ではなく「サービス」という発想も必要になっている。学生を指導しなければならない場面はもちろんある。それでも、指導後のアフターケアに気をつけ、学生が学生生活支援課に入りにくいというイメージを変えようと努めているという。部活動にも顔を出し、積極的に声を掛け、学生の状況変化に目を配る。何でも話してもらえる雰囲気を作りたいと大野課長は語る。他方で過保護になり過ぎないようにも注意し、学生が自ら考え、挑戦するのを促すことも心がけているという。なるほど、学生支援の現場で求められる能力は複雑化している。担当者には、学生だけでなく保護者や地域の人とのコミュニケーションの機会も少なくない。相手と場合に応じてきめ細かに対応できる対人スキルが求められる。だから勉強会や研修等も適宜実施しながら、現場での経験を通して学んでもらう必要があると大野課長は言う。職員だけで対応できない案件については専門性を有する人材も雇用するという。かかる急速な変化は、大学に発想の転換を迫っていると言わざるを得ない。梶原センター長は、学生一人ひとりの要望を吸い上げること、学生のSOSを待つのではなく、こちらから情報を集めに行くことの大切さを強調する。学内の色々な所が持つ情報を極力一元化するため、学科会議でも中退防止の話をし、教員に認識してもらうことで、担任やアカデミック・アドバイザーの先生から情報を収集しやすくする。そんな地道な取り組みの結果、少しずつ情報が可視化されてきたという。やはり中退防止対策会議の設置は大きな一歩だった。次なる課題は、情報やデータに基づく多様で効果的な支援策が策定され、適切な部署が臨機応変に支援の手を差し伸べる体制を構築することだ。今後の展開に注目したい。特集 中退予防の処方箋図表3 初年次における退学者数及び中退率の推移20(名)(%)1.41.21.00.80.60.40.20.016128402011年度2012年度退学者数中退率2013年度2014年度2015年度1.1816141312151.051.021.130.84

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