カレッジマネジメント202号
29/54

29リクルート カレッジマネジメント202 / Jan. - Feb. 2017(吉田 文 早稲田大学教授)またこの活動には、3年前から学生の参画を許している。試行的な取り組みではあるが、いずれ正式に組織化し、学生の意見を吸い上げることで、より学生を意識した授業展開ができるのではないかと企図している。こうした活動の結果として、学期ごとの授業評価アンケートの平均値は5段階中4.21と、高い成果を残している。図表1にあるように、専門科目の教員が上述のサポートをするとともに、教員はクラス担任となって学生に個別対応する。教員1人当たりの学生数は20〜30人弱であり、学生一人ひとりに目配りができる範囲である。こうした3方向からのサポートがあってこそ、学生は大学生活の意味を見いだしていくのである。具体的な事例を学長や事務職員の方々から聞くにつけ、こうしたサポートがなかったならば、中退率はこの程度で留まることはなかったろうと思う。中退防止の要の時期一般的に中退が多いのは、1年次と2年次である。この時期に大学生活に意味を見いだすことができれば、3年次・4年次の中退は防止できる。当該大学の3年次・4年次での中退率は年々低下しており、上記の各種取り組みが徐々に効果を発揮しているようである。対策は早ければ早いほうがよいというのであれば、AO入試で入学を決めた者への対処は1つの方法である。未来大では、9月に決定するAO入試での入学者に対しての対応も既に始めている。入学前教育として、ノートテイクの方法を教え、読解用の文章を要約して提出させ、大学での学習への準備にあてている。現在は、入学前に2回であるが、さらに回数を増やす予定である。また、補習教材のeラーニングも用意しているという。鉄は熱いうちに打てのたとえの通り、大学入学前に学習の意味を教えておくことが、入学後の適応を早めるであろうことは理解できる。そして、大学入学直前の3日間のスタートアップセミナーでは、オリエンテーションとして、挨拶から始まる礼儀を学び、いわゆるコミュニケーション能力を涵養し、教員やCAとの語らいのなかで4年間の目標を立てること、友人を作ることを目標としている。これに参加してから入学式を経ることで、1年次の春学期の授業にスムーズに適応できるという。入学前や入学直前のこうした措置は、意外なほどに効果があるのだそうだ。これらは学生にとって、新たなスタートを切るうえでのモチベーションになるのだろう。今後の課題は経済的困窮が真因のケースこれらの方策が実績を伴っていることは、リクルートによる高校生対象の「進学ブランド力調査2016」において、関東地域で「学生の面倒見がよい」大学で8位にランクされていることからも証明できよう。ただ、こうした結果に安住できないことを、学長をはじめ大学関係者は異口同音に語られる。このように多々手を尽くしても、中退者は完全にはなくならないのである。中退者がその後、どのような進路をとっているのかは気になるところだが、実際にはよく分かっていない。ただ、どちらかといえば、併設の通信教育課程・専門学校・他大への転学者等高等教育機関での学業継続者が多く、就職する者は多くはないという。学業継続者のほうが多いということから、当該大学でも中退者に対しての再入学制度を設けているが、これまでのところその利用者はほとんどない。中退が単なる進路のミスマッチであれば、それはそれでよい。早めの進路変更は本人の将来にとって意味がある。問題は、中退の原因が複合的である場合が多いことである。学業不振のように見えて、その背後には、経済的要因が深く関わっていることも多く、必ずしも本人の学業成績や意欲だけに帰すことができないのである。実際、日本学生支援機構からの奨学金の受給者は在学者の43%にのぼっている。こうした問題への対処として、卒業生や、卒業生が就職している企業等の支援を受けての後援会を設置して、経済的困窮にある学生を救いたいと、学長は思いを吐露される。現在、成績優秀者を特待生として授業料の免除をしているが、その多くが経済的な困窮者でもあるという。家計に依存する高等教育システムを持つ日本では、進学率が50%を超えるという事態は、経済的な困窮を抱えつつ大学へ進学する層を多くしていることにもつながる。それが集中して現れやすいのが新設の小規模大学である。困難を抱える大学であっても、多方面からのサポートによって救われていく学生がいる。こうした地道な努力が積み重なって日本の大学は成り立っているという思いを強くする次第である。特集 中退予防の処方箋

元のページ  ../index.html#29

このブックを見る