カレッジマネジメント202号
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47められるようになる。その象徴が国の成長戦略であり、2013年6月に閣議決定された『日本再興戦略-JAPAN is BACK-』では、「成果目標(KPI)のレビューによるPDCAサイクルの実施」の項を立て、「今回の成長戦略では、大きな政策群毎に、達成すべき『成果目標』(KPI)を示している。国際比較を含め、客観的、定期的、及び総合的に政策の成果を評価できるように、国際機関が示す指標も含めて、『成果目標』を設定している」と明記している。2016年6月の『日本再興戦略2016─第4次産業革命に向けて─』から、高等教育に関するKPIを確認すると、2025年までに企業から大学、国立研究開発法人等への投資を3倍増とすることを目指す、今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上入る、2015年度末で各大学の改革の取り組みへの配分及びその影響を受ける運営費交付金の額を3〜4割とすることを目指す、等の指標がKPIとして示されている。観念的・抽象的な目標ではなく、具体的かつ定量的な目標を設定し、その着実な実行を管理していこうとの考え方は理解できるが、一つひとつの指標がいかなる根拠や考え方に基づき、どのような検討プロセスを経て設定されたのか、十分な説明はなされていない。KPIを重視する動きは、高等教育政策にも及んでいる。2015年6月に示された「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について(審議まとめ)」では、予算配分の決定方法のなかで、「取組の成果を検証するため、原則として測定可能な評価指標(KPI)を独自に設定する」と明記されている。同様に、公立大学法人の中期目標・計画においても、また私立大学が独自に策定する中長期ビジョンや計画においても、KPIという用語を使うか否かは別にして、成果指標や業績評価指標をより重視する方向に向かうことが予想される。IRとKPIの本質は「見える化」KPIはIRに比べて、大学における認知度は低く、大学機能の高度化に資するという点で、その役割も当面は限定的なものにとどまるだろう。経営はともかく、教育研究にKPIという手法がどの程度馴染むかについても、十分に検討する必要がある。その一方で、大学も組織である以上、目的を明確化したうえで、期間を区切りながら到達すべきゴールを定め、個々の構成員の貢献を引き出し、相互の協働を促す必要がある。そのゴールがより具体的で分かりやすいほど、力も結集しやすい。KPIを特別な手法と考えるほど、数値化にとらわれ過ぎ、合目的性を損ないかねない。目指すべきは目的の実現であり、KPIはその方向や道筋を示し、行動を促すための手法であることを踏まえておく必要がある。同様に、IRも特別なものではない。組織である以上、あらゆる部門や職階で日々様々な判断がなされ、問題があれば改善し、状況や結果は適宜報告される。そのためには、正確かつ多面的な情報を効率的に収集できる仕組みが整っていなければならない。IRは、教育研究や経営に関する情報を「見える化」する活動であり、KPIも達成すべきことやそのために行うべきことを、指標化を通じて明らかにするという点で「見える化」である。IRとKPIを実質化するためにも「見える化」の本質を理解しておく必要がある。良い見える化は、気づき、思考、対話、行動を育む遠藤(2005)によると、同じ目的に向かって仕事をしていても、「見えていない」部分のほうが圧倒的に多く、「見える」ことは本質的な競争力の源泉だという。そのうえで、「見せよう」とする意思と「見える」ようにする知恵の2つがなければ、「見える化」は実現できないと述べている。その一方で、「見える化」の落とし穴として、「IT偏重」、「数値偏重」、「生産偏重」、「仕組み偏重」の4つを指摘する。IT偏重では、IT化で逆に「見えない化」が進むこともあり、デジタルとアナログの使い分けが大事とし、数値偏重では、トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一元副社長の「『データ』はもちろん重視するが、『事実』を一番重視している」との言葉を紹介している。リクルート カレッジマネジメント202 / Jan. - Feb. 2017

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