カレッジマネジメント202号
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6リクルート カレッジマネジメント202 / Jan. - Feb. 2017日本では、これまで大学の中退はそれほど注目されてこなかった。中退者が人数的にも少ないこともある。アメリカでは卒業率が6年間でも7割に満たず、大きな問題となっているのとは対照的である。アメリカでは学業継続(persistence)や卒業(completion, success)に与える要因について多くの研究が見られる。これに対して、日本では中退の理由として主に心理的問題や家庭問題が取り上げられてきた。しかし、2014年に文部科学省「学生の中途退学や休学等の状況について」調査の結果が公表され、経済的要因が大学・短期大学の中退の理由として20%を占め、最大の要因であることが明らかにされたことから、にわかに経済的要因が注目されるようになった。ここで重要なことは、経済的要因による中退は、学生への経済的支援等の施策により改善可能であるということだ。他方で、中退に至る要因は複合的であることには十分注意する必要がある。例えば、慢性的な家計の経済的困窮により家族からの経済的支援が受けられず、アルバイト過多となり単位が十分取得できなかった結果、休学、ひいては退学に至るケースがある。この場合中退の最大の直接要因はアルバイト過多であるが、その根底に経済的要因が潜んでいる。私達は、こうした中退に至る複雑なプロセスや日本の大学における休学や中退の現状と課題、とりわけ大学の取り組み状況と課題について明らかにし、今後の学生への経済的支援に対するインプリケーションを得ることを目的とした調査研究を続けてきた※1。さらに、平成27年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業「経済的理由による学生等の中途退学の状況に関する実態把握・分析等及び学生等に対する経済的支援の在り方に関する調査研究 」を受諾し、以下の調査を実施した。(1)全国大学訪問調査(2)全国大学・短期大学アンケート調査(3)中退者ウェブモニター調査ここでは、こうした調査から浮かび上がった、経済的理由による休学や中退の要因と大学の対応について、一端を紹介する。詳細は同調査報告書として、文部科学省ウェブサイトに掲載されている。全国大学訪問調査と全国大学・短期大学アンケート調査の結果から2全国の国立大学と私立大学から、規模・地域・中退率を考慮して計20校(国立5校・私立15校)を選定して、訪問調査を実施した※2。訪問大学には、丁寧に対応して頂き、多くの知見を得ることができた。改めて感謝申し上げる。また、2016年1・2月に全国の全ての大学・短大を対象としたアンケート調査を実施した。主な質問項目は、授業料滞納の状況と学生への経済的支援経済的要因による学生の休学と中退※1科学研究費基盤(B)「教育費負担と進路選択における学生支援のあり方に関する調査研究」平成27-30年度(研究代表 小林雅之)※2公立大学は中退者が少ないため対象としなかった。小林雅之東京大学 大学総合教育研究センター 教授王  傑東京大学 大学総合教育研究センター 特任研究員(第3節を担当)王  帥東京大学 社会科学研究所 特任研究員(第4・5節を担当)中退はなぜ問題か1

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