カレッジマネジメント203号
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20リクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017当した仕事について正確さや効率をアップしていくだけで事足りる世界です。一方、プロフェッショナルの仕事は一部分だけということはあり得ません。プロフェッショナルは人の数だけ仕事があると言われ、個性化することでレベルを上げていく。プロフェッショナルとスペシャリストは、分けて考えるべきです。ITの世界で言えば、プログラマー等でITスペシャリストと呼べる人材がいます。スペシャリストとして経験を積み、そのスキルを生かして、システム全体のコンセプトから構想するようになれば、これはもうプロフェッショナルです。営業職で言えば、顧客からなるべく多数の注文を取り、数で仕事を評価されている間はスペシャリストです。これがレベルアップしてくると、単に顧客の要望通りにソリューションを提供するだけではなくなってくる。顧客の想像を超えた提案で感動させよう、顧客の気づいていない課題まで提示しようと考えるようになると、顧客は「またあの人に担当してほしい」と、その営業担当にロイヤリティを感じるようになる。こうなるとプロフェッショナルの領域でしょう。──日本企業には、なぜプロフェッショナル人材を活用できる「プロフェッショナル型」企業への移行が求められるのでしょうか。いくつかの観点でその必要性は説明できます。第1に挙げられるのは、中長期的な競争力構築の観点です。経営者が短期的視点を重視し、今期の利益を追い求めてばかりという状況では、プロフェッショナルの活用には目がいきません。企業がある程度の規模に拡大し、上場などで公共性が高まってくると、短期的利益ばかりを追い求めるわけにはいかなくなる。経営者と従業員だけでなく、顧客や取引先、さらには一般社会へと多くのステークホルダーがかかわるようになり、経営には戦略性や持続性が求められるようになります。中長期的に、自分たちはどこに向かっていくのか。どんな価値を提供することで社会に貢献するのか。そうしたビジョンを練り上げ、実行していくには、様々なプロフェッショナル人材の専門性が欠かせませんし、それらが実現して初めて、中長期的な競争力は構築できます。第2の観点は組織の健全性担保という観点です。従来のメンバーシップ型企業では、社員は会社と仕事で言えば、会社へのロイヤリティが高かった。会社のメンバーであることがまず重要だったからです。だから「会社のために」と悪事に手を染めたり、不祥事に目をつぶったりといった「会社人間」が生まれてしまいます。ところがプロフェッショナル人材は、会社よりも仕事へのロイヤリティが高いため、職業倫理に反するような不祥事は起こしにくい。またプロフェッショナル人材は、一緒に働く人に愛着を持っていることも特徴に挙げられます。パワハラをしたり長時間労働を強いたりしないので、職場がブラック化しません。経営者が倫理観を持つことはもちろん重要ですが、プロフェッショナル人材を認めて活用することで、組織全体の健全性が保たれるのです。第3の観点は、個人のキャリアのために必要だというものです。企業をとりまく環境変化のスピードが速まり、一度構築した競争優位性の賞味期限切れが速まっています。新卒で入った会社が定年まで健全で雇用を維持できるかどうかは、誰にも分かりません。一方で高齢化が進み、個人のキャリアはどんどん期間が長くなっています。会社の寿命は短くなり、個人のキャリアは長くなるなか、社外に出ても通用するような専門性を身につけることは、個々人が充実したキャリアを築くためにも重要になってきています。──社員一人ひとりの個性を生かす、ダイバーシティ型経営が必要だといわれています。そのことと「プロフェッショナル型」企業の間には、どんな関係があるのでしょうか。メンバーシップ型の企業は、中途採用より新卒中心で、採用後の職種も限定しないという特徴を持っています。ところが近年、無理に会社の画一的な価値観を押し付けるのではなく、個々の社員の得意領域や違った価値観を生かしたまま、人を育てようという企業が増えてきています。前者の企業では、育成は会社に入れてから進めるため、学校で学んだことは気にしないし、期待もしません。一方後者の企業では社員の個性に注目するため、学校で学んだ中長期の競争力構築、健全性確保の観点からも「プロフェッショナル型」企業の移行は重要

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