カレッジマネジメント203号
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54リクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017リック活用の意義がある。これは、面接回数問題に直面している大学関係者にとって注目される結果ではなかろうか。ただ同時に、図表1の結果には「ルーブリック活用のための条件」とでも呼べるようなものも示されていることは強調しておきたい。つまり、ルーブリックに意味を持たせるには、「やや重要な基準」程度ではなく、「かなり重要な基準」だと言えるようになるまで磨き上げる必要がある。そのレベルにまで磨き上げなければ、とりわけ面接が1回のみの選抜では、道具を用いる意義は大きく減退する。そして、この磨き上げのために必要となるのが、連載2回目で扱った「人材像」の追求という作業である。調査では、前回の分析で用いた人材要件関連の質問以外にも、求める人材像について、いくつかの側面から尋ねている。例えば、勤務先で歓迎される人材について、次のような対照的なタイプ(AとB)を示し、現状を4段階尺度(Aに近い-ややAに近い-ややBに近い-Bに近い)から選んでもらうといったものだ。1)A:ルーティンとなっている仕事を正確にこなす人材B:仕事のやり方について、抜本的な改革を提案できる人材2)A:空気を読んで円滑な人間関係を築くことができる人材B:論理的に相手を説得することができる人材3)A:下手に専門性を獲得していない「白無垢の花嫁」状態の人材B:既に高い専門性を獲得している人材この回答分布とルーブリックの位置づけとの関連性を分析すると、「A(orややA)」と「B(orややB)」のどちらを選択するかではなく、「A(orB)」と回答するのか、「ややA(orややB)」と回答するのかによって、ルーブリックに担わせる役割に違いがあることが見えてくる。前者「A(orB)」のほうが後者「ややA(orややB)」よりもルーブリックを重視しており、逆に言えば、よほど強く人材像を自覚しなければ、効果的なルーブリックを作成することはできないということだ。さらに言えば、面接者個人のレベルでも、ルーブリックを使いこなすための条件がある。図表2を見てもらいたい。これは、採用面接経験の状況別に「ルーブリックの位置づけ×人を見る目に対する自己評価」の関係を示したものである。経験を積んでいる者の折れ線が上側にあり、人を見る目は経験によって育つことに気づかせてくれる結果だが、同時にこのグラフからは、ルーブリックを使いこなすためにも経験が必要だということが明らかになる。面接経験を積んでいない者のグラフは平坦であり、ルーブリックがあろうとなかろうと、どのようなルーブリックが作成されていようと、人を見る目への影響を確認することはできない。面接を実施する組織も、面接に当たる担当者個人も、それなりの議論と時間、経験を積まなければ、納得がいく面接へとなかなかたどりつけない。ルーブリックといった道具に力を持たせることができない。それが現実であることをデータは示しているように思われる。結局は「地道な努力」が鍵さて、本連載では、企業の新卒採用を糸口に、多面的・総合的評価を構築するためのヒントを探ってきた。人材要件に見る「求める学生像」への示唆(第2回)やルーブリックの意義(第3回)──質問紙調査データによる実証分析からは、これまで提示されたことがない知見が抽出されたように思う。ところで、質問紙調査では、新卒採用面接担当者である回答者達に、2つの観点から大学入試に対する意見も尋ねている。(1)大学に進学するのなら、学力試験を受けるべきだ、(2)推薦やAO入試では、能力をきちんと判定することはできない、それぞれについて4段階尺度(非常にそう思う-ややそう思う-あまりそう思わない-まったくそう思わない)で回答してもらっているが、最後にやや衝撃的だったその分布を紹介しておこう。図表3は、「非常にそう思う」と回答した者の比率を、面接経験別に示したグラフである。ここからは、面接を

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