カレッジマネジメント203号
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67また、国大協会長も務める里見進東北大学総長は、競争的資金へのシフトが進む現状に対して、「先進的であるとして評価されたはずのプロジェクトでも、期限が到来すれば、翌年から経費削減の対象となる。このため、資金獲得のために、次から次へと新たなプロジェクトを立ち上げなければならないのが実情だ。任期付きで雇った若手研究者以外の人件費にも手を付けなくてはならない危機的状態を招来している」(『中央公論』2017年2月号)と述べている。地方の国立大学や中小規模の国立大学の危機感はさらに強く、将来の存続自体を危ぶむ、より切実な声が数多く聞かれる。何より危惧されるのは、このような雰囲気を察した学生が自分の大学の将来に不安を抱くといった状況である。これらの背景には、法人化初年度の2004年度に1兆2415億円であった運営費交付金が毎年1%ずつ削られ、2015年度の1兆945億円にまで、累計1470億円も縮減されたことがある。2016年度は前年度同額を確保し、2017年度も同様の見込みであるが、使途が指定される予算が含まれる等、縮減に歯止めがかかったとの安堵感は大学の現場にない。「三つの重点支援の枠組み」から一つを選択予算削減に加えて、文部科学省より次々と打ち出される改革諸施策も正負両面で各大学に様々な影響をもたらしている。国立大学法人は、6年を一期間として文部科学大臣より示される中期目標に沿って、自ら中期計画を策定し、その承認を受けることで国と計画達成をコミットすることになっている。この制度の目的は、評価による大学の継続的な質的向上、評価を通じた社会への説明責任、評価結果の次期以降の中期目標・計画への反映と運営費交付金等の算定への反映である。本制度が今も国立大学法人制度の根幹であることに変わりはないが、2012年6月の「大学改革実行プラン」において、個々の国立大学のミッションの再定義と国立大学改革プランの策定・実行等の方針が示されて以降、2013年6月には「今後の国立大学の機能強化に向けての考え方」、同年11月には「国立大学改革プラン」、2015年6月には「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」と題する文部科学大臣通知、同月に「国立大学経営力戦略」と続き、国立大学はこれらの政策を反映させながら2016年度から始まった第3期中期目標期間の取組を開始している。中でも、2015年6月の文科大臣通知は人文社会科学の軽視として、多方面から厳しい批判を浴びることとなった。その真意や内容の是非は別にして、本通知を含む一連の動きが、相次ぐ国立大学の教員養成系学部や人文社会科学系学部の組織再編に繋がったことは明らかである。また、国立大学経営力戦略では、第3期において機能強化に積極的に取り組む国立大学に運営費交付金を重点配分することを目的として、「三つの重点支援の枠組み」が新設された。これにより、86の国立大学は、重点支援①(地域貢献とともに強み・特色ある分野で世界的・全国的な教育研究を推進)、重点支援②(強み・特色ある分野で世界的・全国的な教育研究を推進)、重点支援③(全学的に世界で卓越した教育研究・社会実装を推進)のいずれかを選択し、取組構想を提案したうえでそれに対する評価に基づき、財政支援を受けることになった。そのために国は2016年度予算において308億円を確保している。文科省の説明から、国立大学の単純な類型化や序列化を意図したものでないことは理解できるが、学生・教職員を含めた各大学の関係者や社会の受け止め方次第で効果以上に弊害が大きくなる恐れもある。また、取組構想に対する評価の適正性をどう担保するかという課題があることも指摘しておきたい。国立大学の自主性・自律性は増してきたかこのような動きの背後には、厳しい財政状況にも拘らず可能な限りの措置を講じてきたと考える財務省、産業競争力会議や教育再生実行会議等を通して大学に変革を求める産業界等の存在がある。これらの主張や要望を受け止めながら、国立大学に改革の加速を迫る文科省の難しい立場に理解を示す声も少なくない。その一方で、自主性・自律性を高らかに謳いあげてスタートした法人化が、ここにきて明らかに後退しているとの厳しい指摘も多い。石弘光一橋大学元学長は、「法人化リクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017

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