カレッジマネジメント204号
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12リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017そもそも、高等教育機関の質保証システムの確立と普及という点ではアメリカが世界で最も古く、120年以上の歴史を持っている。民間団体によるアクレディテーションが今まで続いている大きな理由は、アクレディテーション機関に認定されることが連邦政府の奨学金の受給資格に連動しているからである。そして、そのアクレディテーションの特色は、大学による自己点検(self-study)が評価の中心に据えられていることだ。今では世界中で当たり前になっている自己点検は、もともとアメリカのアクレディテーション機関が1930年代に考案したものである。それまでは数量的な基準によって評価を行ってきたアクレディテーション機関が、画一的な基準による評価の限界から、多様化する大学の評価にはその大学のミッションに基づいた評価が必要であるとして開発したのが自己点検なのである。従って自己点検とは、奨学金の受給資格につながるという後付けのメリットを持つアクレディテーションのプロセスとして位置づくものであることに留意する必要がある。これに対しヨーロッパでは、「内部質保証」を前提とした評価システムをヨーロッパ全体で普及させようとしている。そのヨーロッパでは「質の文化(Quality Culture)」という言葉がよく使われる。「質の文化」とは、大学の構成員の誰もが大学という組織の質に対して責任を持つこと、大学の価値・特色・期待に構成員それぞれが深く関わり、その相互作用によって大学の改善や変化を自主的・自立的にサポートするといった考え方である。この「質の文化」に支えられて内部質保証が成立していると言えるだろう。もちろんアメリカのアクレディテーションの発展はボランタリズムなくしては成立し得なかったが、メリットとの連動は連邦政府のコントロールも受けやすい。翻って日本では、自己点検・評価から内部質保証重視へと移行しようとしている。そこで必要なのは、大学内の評価に関わる体制をどう変えるかということだけではない。長らく設置認可によって質の維持を図ってきた日本の大学が、認証評価制度の導入後、認証評価の義務履行のプロセスとして実施してきたともいえる「自己点検・評価」から、自らの大学の質を高めるための自立的な「内部質保証」へと切り替えるために必要なのは、大学の構成員の根本的な意識改革ではないだろうか。一言で構成員の意識改革と言っても、容易にできるものではないだろう。ここでは、既に質の文化が醸成されているであろうヨーロッパではなく、学生の学習成果測定に取り組むことが強く求められているアメリカの大学の例から内部質保証システム構築の手掛かりを探ってみたい。アメリカでは、Internal Quality Assurance(内部質保証)という用語はあまり使われていない。アメリカで質保証のキーワードとなっているのはInstitutional Eectiveness(大学の組織としての有効性)である。アメリカ経済の悪化によって、奨学金と連動するアクレディテーションに対して連邦議会等から厳しい目が向けられるようになったのは、1990年代頃からである。筆者の把握している限りにおいては、その数年後からアクレディテーション機関の評価基準等の文書に Eectiveness の単語をしばしば見かけるようになった。典型的な例でいえば、南部の州を管轄しているアクレディテーション団体は、Institutional Eectiveness(IE)の機能を置くことを大学に義務づけている。日本でも導入する大学が増えているInstitutional Research(IR)との関係は、IEとIRが並列であったり、IEの中にIRが置かれていたりと、大学によって様々である。IEオフィスの主な役割は、大学全体の組織的な活動を有効性の測定によって評価し、改善策を導き、次の中期的な計画立案に結びつけることである。例えば図2のように、大学全体の中期計画の遂行と各学部の自己点検・評価をつなぎ、適切な改善方策の提示や戦略的計画の立案を行う。この図で点線の矢印で示した大学と学部等の学内組織を円滑に結ぶことが重要なのである。この矢印がつながっていないと、学内部質保証システムの構築への手掛かり5

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