カレッジマネジメント204号
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16リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017果が異なるはずだからである。共通枠組み(共通性)に基づいて自らの特徴(多様性)を可視化することが、プログラムの強みを顕示することになると考えられている(図表2)。第三に、チューニングにおける学問分野別学修成果枠組みは、抽象的に記述されている。学位プログラムでは、追求する学修成果に即して、科目が構造的に配置される。そして、各科目を担当する教員によって、それぞれの文脈に即して、抽象的な「学修成果」が達成可能で測定可能な「学習成果」に具体化され、単位認定の前提として、学習成果の習得に基づく厳格な成績評価が行われる。チューニングでは、学位プログラムを履修した総合的な成果である学修成果は、いわゆる「コンピテンシー・テスト」等で直接測定することは想定されておらず、あくまでも科目レベルの学習成果を確実に習得した結果として獲得されるものとみなされている。それゆえ、学位プログラムの科目構造、学位プログラムの学修成果と各科目の学習成果の整合性、学習成果の習得に基づく単位認定が極めて重要な意味を持つのである(図表3)。このように、欧州高等教育圏は、政府間合意に基づく一貫した制度設計、大学の主体的参画、欧州連合による安定的な経済支援によって構築されてきた。その際、学問分野別学修成果枠組みを緩やかに共有しながら、各大学が自ら追求する学修成果を選択的に定義することで、共通性と多様性の両立が図られてきたこと、学位プログラムの抽象的な学修成果を科目レベルの達成可能で測定可能な学習成果に具体化し、学習成果の習得を単位認定の前提とすることで質保証の実質化に成功してきたことが、欧州高等教育圏確立の秘訣と言えよう。国際協定の締結─技術者教育の事例技術者が国境を越えて活躍するためには、技術者資格の国際通用性が確保されなければならない。技術分野では、国際協定に基づいて制度整備が進められてきた。例えば、日本の技術士は技術士法に基づく国家資格であり、日本技術士会が実施する技術士第二次試験(受験資格は、第一次試験に合格または技術者教育認定機構認定プログラムを修了し、原則として7年の実務経験を有していること)に合格した有資格者は、技術士の名称を用いて登録した技術部門の技術業に従事することができる。そして、日本技術士会の審査に合格した場合、APECエンジニア登録制度に基づいて、APECの13カ国でも技術業に従事することができる。技術者資格の基盤となる技術者教育の国際通用性を相互承認する国際協定も締結されてきた。日本技術者教育認定機構(JABEE)は、ワシントン協定(工学系)、ソウル協定(情報系)、UNESCO-UIA(建築)に加盟しており、それぞれの協定の考え方に準拠した認定基準や審査手順・方法で審査を行うことで、JABEE認定プログラムの国際通用性を確保してきた。例えば、ワシントン協定(アングロサクソン系・アジア18カ国18認定団体が加盟)は、加盟団体が認定したプログラムの実質的同等性を相互承認するものであり、このことによってJABEE認定プログラムの修了者は、他の加盟国で技術業に従事しようとする場合、その国の加盟団体認定プログラム修了者と同等の教育要件を満たす者とみなされる。なお、ワシントン協定では、技術者教育の実質的同等性を確保する中心的手段として、学修成果枠組み「卒業生としての知識・能力と専門職としての知識・能力」が加盟団体によって共有されており、この枠組みに準拠した認定基準に基づいて審査が行われている。欧州では、欧州技術者教育アクレディテーション・ネットワーク(ENAEE)に認証された13カ国13認定団体の審査に合格した技術者教育プログラムにEUR-ACE認定を与える方法がとられている。EUR-ACE認定プログラムの修了者は、学修成果ABDG学習成果a1a2b1b2b3d1d2d3g1g2g3g4科目1(4ECTS)〇〇○○○科目2(2ECTS)〇〇〇科目3(2ECTS)○○○………図表3 学位プログラムの「学修成果」と各科目の「学習成果」 ─抽象から具体へ─チューニングにおける学修成果とは、学位プログラムを履修した総合的な成果として、学生が獲得することが期待されている抽象的な知識や能力。直接測定することは想定されていない。チューニングにおける学習成果とは、科目を履修した結果として、学生が習得することが期待されている具体的な知識や能力。単位認定の根拠として、所定の学習期間内に達成可能であり、測定可能でなければならない。

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