カレッジマネジメント204号
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17リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017欧州高等教育圏内のどの国においても、技術者資格を取得するために必要な教育要件を満たしていることが認められている。その根拠となるEUR-ACE基準・ガイドラインには、ワシントン協定と同様の学修成果枠組みが組み込まれている。このように、国際協定を締結することで学位の国際通用性を相互承認するアプローチは、職業資格等によって規制されており、大学教育がその職業資格取得のステップに位置づけられている職業・学問分野(例えば医学)にとって有効と言えよう※。国際認証─MBAプログラムの事例職業資格等によって規制されていない職業・学問分野では、学位の国際通用性を担保しなくても学生が直接的不利益を被ることは少ないため、大学の優先課題となりにくい。その中で、国際認証を取得することで、国際舞台での認知度を高めてきた大学がある。慶應義塾大学(2000年)、名古屋商科大学(2006年)、立命館アジア太平洋大学(2016年)は、全国のMBA(経営学修士)プログラムに先駆けて、AACSB国際認証を受けている。1916年に設立されたAACSBの国際認証は、経営学分野におけるアクレディテーションの最大手であり、世界のトップMBAプログラムを含む約760プログラム(MBA全体の5%)を認証してきた。AACSB国際認証の審査では、プログラムとして明確な目的が掲げられており、それを達成する合理的な教育学習環境、及びMBAプログラムの学修成果獲得に相応しい教育課程が整備されており、教育改善メカニズムが稼動しているかどうかが問われる。こうした認定基準・方法自体に目新しさはないものの、AACSB国際認証を取得することは、世界の名門プログラムと「肩を並べ」「仲間入り」を果たしたことを意味する。グローバル大学としての「お墨付き」を獲得することで、他の認定校との連携機会、優秀な留学生の獲得、学生の進路先の選択肢も大きく広がることが期待される。このように、国際認証を取得することで学位の国際通用性を保証するアプローチは、職業資格等によって規制されてはいないものの、学生の進路先が比較的明確かつ国内外に及び、同業者ネットワークの構築が重要な意味を持つ学問分野(例えばジャーナリズム)において、特に有効と言えよう。日本への示唆学位の国際通用性を保証する3つのアプローチから導かれる、日本への示唆を検討して本稿を締めくくりたい。幅広い大学の多様な学問分野を対象に、学位・単位・質保証に係る制度的枠組み、及び学問分野別学修成果枠組みの共有を通して学位の国際通用性を達成してきたのが、欧州高等教育圏の事例である。このアプローチは、域内での大学教員・学生の移動を通して大学間の相互承認・信頼の関係の構築を目指すものであることから、例えばアジア・ASEAN地域でも取り組む価値があると思われる。特に、チューニングが提案する学問分野別学修成果枠組みに基づく学位プログラム設計の方法は、日本の大学が、学部・学科(学位プログラム)のディプロマ・ポリシーやカリキュラム・ポリシーを国際通用性のある形で策定し、実質化していくうえで大いに参考になる。とりわけ、規制された職業・学問分野ではなく、学生の進路先が多岐にわたるため、国際協定や国際認証による国際通用性の保証が難しい学問分野では、唯一有望な方法ではないだろうか。各国の適格認定団体が学修成果枠組みを共有することを通して、認定プログラムの実質的同等性を相互承認してきたのが、技術者教育の国際協定の事例である。このアプローチは、規制された職業・学問分野において、専門職人材の国境を越えた自由な活動を促進するために、今後ますます制度化されていくことが期待される。グローバル大学としての差別化を望む大学が、権威ある国際団体の認証を受けることで、学位の国際通用性を達成してきたのが、MBAプログラムの国際認証の事例である。国際認証には多大な労力とコストが求められるが、大学や学生に直接的恩恵をもたらすため、一部の大学にとっては極めて有力な選択肢と言えよう。特集認証評価第3サイクルに向けて※医学分野でも、米国の外国医学部卒業生のための教育委員会(ECFMG)が、2010年に、米国内での医師免許試験の受験資格として国際基準に基づく認定を受けた医学教育プログラムの修了生であることを2023年以降必須化すると通告したため、日本では日本医学教育評価機構(JACME)が2012年に新設され、世界医学教育連盟(WFME)の基準に準拠した国際基準に基づく認定が開始された。この過程で、日本の医学教育のレベルが世界的に高い水準にあることが確認される一方で、臨床実習が不足している課題が浮かび上がり、各大学で対策が模索されている。

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