カレッジマネジメント204号
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20リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017理念と目標に基づき、学生の成長を実現する学習の場として学士課程を充実させることがより強く求められるようになった。その後の中教審の議論を通じても一貫して学士課程の充実は重要な論点として位置づけられ、2012年の同答申『新たな未来を築くための学士課程教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜』では、より学修成果を意識した内容となっている。日本においては、高等教育のユニバーサル化が進行し、大学の入学者選抜が従来のような入学者の質保証の機能を保持することは難しくなってきている。従って、多様化した学力・学習目的を持った学生への大学の教育力が期待され、その結果としての高等教育の質保証を出口管理によって達成することが強く求められていると言える。GPA制度の活用による卒業判定や、大学全体・各学部等での人材目標の明確化等がそうした具体的方策の一例であるが、これらに加えて、より具体的な学修成果を評価する、つまりアセスメントを実施すること、具体的に学修時間の把握といった学生調査やアセスメント・テスト(学習到達度調査)あるいはルーブリック等、具体的な測定手法を用いて学習成果の可視化を実質化し、そうした結果を改善につなげていくことが「教育の質保証」と捉えられる。文科省の委託調査では、学生調査を実施している大学は80%を超えており、エビデンス・ベースのデータへの重要性を認識し活用し始めていると予想できるが、学生調査データ等をどう内部データと組み合わせていかに分析し、活用していくかについては、技術や専門的な知見とも関わり、IRの次の段階とも言える。そこで、米国のIRの発展過程を参照に今後の日本のIRの発展に向けての課題が何であるかを考えてみよう。米国のIRの発展過程と日本の課題高等教育政策との関連性、専門性に関して、マクラフリンとハワード(2001)は米国におけるIRの存立基盤が極めて実務的な目的にあるため、理論的な見方をとろうとしても実用主義に束縛されると論じている。「IR人材は専門職か、研究者か」という問題を内包してきた米国では、関連専門職協会(AIR)と大学院との連携によるIR養成プログラムの開発、研修機会の提供により方法論、学習成果の測定方法、データベースやICTによる新たなテクノロジーの開発等、IR担当者の技量を向上することによって専門職としての立場を強固にしてきた。IR関係者は、記述的な統計から徐々に進化し、分析や評価が重視され、深い分析や評価結果を執行部に提示するというように技術・学術分析面での深化を通じて、専門性の向上を実現してきた。そのことが自立的発展と市場の拡大につながっ表1 米国のIRの発展過程米国他律段階自立への起点段階自立的発展段階政策●政策主導(例)・情報公表の義務化・高等教育予算削減・明確なアウトカム志向政策へのシフト・恒常的高等教育予算削減・アウトカム志向政策・恒常的高等教育予算削減・グローバル化とランキング対応政策制度・政府統計機関の整備と連携 (例 米国NSF NCES)・専門職概念の登場・専門職としてのEthics概念の登場・認証評価制度との連携・政府データベースの整備と個別機関のデータベースの接続(例 米国IPEDS、NSF&NCESデータ)・専門職の認定と広がり・専門職としてのEthicsの普及機関・IR部門の設置・IR人材の配置・学内での認識の広がり・教学部門と経営部門の連携・他機関とのベンチマーク・戦略計画への組み入れ・教育改善への組み入れとサイクル確立・経営改善への組み入れとサイクル確立・IR管理職の誕生と配置IRアクター・データの収集と整理・データベースの整備・専門性の模索・方法論の模索・技術の向上・関連学協会設立の模索・専門性の確立・学協会の成立と拡大・大学等IR人材養成プログラムの成立・市場の拡大

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