カレッジマネジメント204号
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31リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017(吉田 文 早稲田大学教授)例えば組織別評価委員会において、ある学部から教育上の課題が抽出された時、それは分野系評価委員会における教育分野においても議論の対象となり、ある学部の課題がどの程度全学的な課題かどうかを検討することができるのである。縦割りの組織構造に対して横串を刺すというメッシュ構造がここにある。組織別評価委員会では見えていなかったものが、分野系評価委員会に送られることでより問題の所在が明確になるのであり、また、その逆もあり得る。また、大学評価委員会と組織別・分野系評価委員会との関係は、トップダウンというよりはボトムアップ的に機能する場合が多いとのことだ。問題の基底や初発は組織別あるいは分野系評価委員会の点検・評価で見いだされた課題にあり、それが大学評価委員会に上がったとき、全学的な課題として議論され、今後の方針が決定され、それが組織別、分野系評価委員会にフィードバックされるというループが回っているという。これらのプロセスを取りまとめた毎年度の自己点検・評価報告書は1300ページにも及び、内容は充実している。組織別評価委員会の自己点検・評価レポート作成は6月末までに、分野系評価委員会による自己点検・評価レポート作成は7~9月、同時期に並行して大学評価推進委員会による点検・評価内容の検証、フィードバックや修正依頼が入って、最終的な自己点検・評価報告書は12月に完成、1月からは外部評価委員会による評価活動に付され、その結果は4月に公表、そして4月には新年度の目標・行動計画・指標の策定。この極めてタイトなスケジュールが繰り返されるのである。これらを担う担当者の苦労たるや如何ばかりかと思うところだが、何とこれだけの規模のPDCAを専任で担う職員はたった4人だというから驚く。酒井総長・学長は、「これまでは、個々の組織がそれぞれに自己点検・評価していただけだったものを、分野系で議題とすることで、自らの組織にとってもほかの組織にとっても気づきが生まれるのです。それをさらに全学的な視点で調整し、2つの委員会にフィードバックすることで、PDCAサイクルは回っています。それぞれの組織は年度当初にアクションプランを示すことが求められており、それをもとに予算が配分されます。これもサイクルを回すための装置です」と話される。自己点検・評価を目的とした委員会構成であるものの、実のところそれを越え、大学の教職員のかなりを巻き込んでの大学の意思決定や運営に大きく関わる組織体制となっており、また、そのように機能させることを目指しているようだ。世界に存在感のある大学へ折しも、2018年からの第3期の認証評価では内部質保証が重点項目とされる。それを先取りしたような中央大学の自己点検・評価システムであるが、課題が無くなったわけではない。ディプロマ、カリキュラム、アドミッションの3つのポリシーを規定したものの、それに対する学生の認知度は高くはない。学生の学修成果が問われるなか、まずは3ポリシーを学生に認知させることが必要である。それをいかに高めるかは、さほど容易なことではない。学生の学修成果に関しても、何をもって学修成果とするのか、それをどのように測定するのか等は、十分に議論を尽くさねばならない。また、Chuo Vision 2025として法人と教学が一体となって中長期事業計画を作ることができたものの、法人からすれば財政的な観点から野放図な拡大には待ったをかけるし、教学に関しても学部教授会の意向を無視して進めることはできない。ビジョンの遂行も、法人と教学とを調整しつつ進めなければならない。しかし、酒井総長・学長は「問題が問題としてクリアになったということが、とても大きな意味を持つのです。問題にぶつかっていると分かれば、その解決の方策を考えて動くからです。この20年間は、それに気づこうとしないままに来てしまったのです。もうこうしたことがないように、内部から大学の状況に応じた変革を起こす仕組みや動きが必要でしたが、ようやく中長期の事業計画ができ、それを実施するための内部質保証システムが機能することで、大学全体が動き始めました。今までとは違う段階に来ています。中央大学も変わっていきます」と、手応えを感じておられるようだ。「世界に存在感のある大学へ」という中長期事業計画の目標は、2025年にどのような形となって結実するのだろうか。特集認証評価第3サイクルに向けて

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