カレッジマネジメント204号
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43リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017(白川優治 千葉大学国際教養学部 准教授)に取り組んでいくことで、教育の成果や効果のあり方の枠組みを変えていくことも視野に入れているという。このようなKPIダッシュボードは、5年前から進めてきた野村證券との共同研究によって形成された。村田学長が同大高等教育推進センター長であった2013年にスタートし、教職協働の研究チームで、アメリカの大学への訪問調査など先進事例を調査した成果に基づいたものである。この研究は、KPIダッシュボードの開発が目的にあったのではなく、PDCAを実現するために先進事例を調査する中で、米国の多くの大学が戦略的にマネジメントに用いているダッシュボードに注目し、大学としての成果を考えるツールとして2016年に独自にKGモデル(関西学院モデル)として作成した。KGモデルの特徴は、KPIをPCの画面上で全てが見えるように並べることで一覧性を持たせることと、項目が多すぎて情報過多になることを防ぐために指標項目を40項目以内に絞り込んでいることにある。建学の精神に基づいて最上位の指標が明確にあることにより、個々の指標の構造化が図られることも、KGモデルとして重要な特徴である。各KPIがどのような状況にあり、相互にどのように関連しているのかを検証するためには、IRとして、どのような学生が入学し、大学でどのような学習を経由して、どのように就職し、卒業後にどのように活躍しているかの分析・検証が必要となる。そこで、IRの一環として、学生調査や卒業生調査が実施されている。卒業生調査では、「スクールモットーを心がけているかどうか」を尋ねることで、建学の精神の浸透度を確認している。年齢層が高いほどその肯定率が高い傾向にあるという。自己点検・評価による内部質保証の実質化学長によるマネジメント体制の整備とともに、自己点検・評価の進め方にも改革が行われてきた。2014年までは大学基準協会の認証評価の項目に沿って各部署の自己点検・評価を行っていた。しかし、内部質保証を実質化する観点から、2015年からは、大学と学部・研究科の理念、目的、教育研究目標、方針等を構造的に整理し、それに基づいて目標と行動計画を策定し、その到達度を自己点検・評価する方法に変更した。学部・研究科等の目標と行動計画は、整理された構造から導き出されることで、大学の目標との間に整合性が保たれている。そして、年度末に2回、機構・センターの長等を含む大学執行部と学部長、研究科長と各組織の自己評価委員長、事務の責任者など80数名が一堂に会し、各部局の目標、重点施策の進捗状況と課題を報告し、意見交換する「内部質保証検討会」を開催し、全学で目標の達成状況や課題について共通の認識を持つことで内部質保証の実効性を持たせている。この内部質保証検討会では、質疑応答が活発になされ、各部局の取り組みを全学で共有する機会となっている。そして、自己点検・評価の結果は、ウェブサイトで公開している。このように関西学院大学では、内部質保証のための自己点検・評価の仕組みを再整備したのである。そして、次のステップは、中期総合経営計画と自己点検・評価をどのように組み合わせるかであるという。自己点検・評価で発見された問題点とその解決策を中期総合経営計画に組み込んでいき、改善のための予算と組み合わせることが、次のあり方とされている。そして、「学内コミュニケーションとして、長期戦略の中間報告案をもとに今夏、全学説明会を行う予定である。常に、透明性と公開性を重視している」と村田学長は話す。トップマネジメントのリーダーシップで進めていくだけでなく、組織全体が目標を共有することにも配慮している。関西学院では、過去5年間で、総合的マネジメント体制として、法人と大学の関係を再構築し、学長を中心としたマネジメント組織を確立した。その上で、超長期ビジョン・長期戦略・中期総合経営計画による構造的なPDCAサイクルを構想するとともに、その具体的なツールとしてKPIダッシュボードの開発を進めた。さらに、自己点検・評価を通じた大学執行部と部局の内部質保証の実質化を進めてきた。今後は、ビジョン・戦略・計画とKPIダッシュボードを用いてどのような実質化がなされていくかが注視される。これらの取組は、独自の調査研究の蓄積とオリジナリティに基づくものであるが、建学の理念を前提に、学長がリーダーシップを発揮する体制とともに、各部局が自律的に内部質保証を進めていくボトムアップの積み重ねを構造的に組み入れることの重要性は、各大学にも共有されるものだろう。特集認証評価第3サイクルに向けて

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