カレッジマネジメント204号
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54リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017するヨーロッパ単位互換制度(European Credit Transfer System: ECTS)がエラスムス計画の学生モビリティを飛躍的に高めてきた。これに対してアジアでは、UMAPが定めるUniversity Mobility in Asia and the Pacic (UCTS)、アセアンが定めた単位互換制度(ASEAN Credit Transfer System: ACTS)がそれぞれ考案され運用されるようになった。このため、高等教育圏としての統一を図るという点では複数のスキームが並存しており、運用面では互換性の点で複雑な構造になっている。こうした状況に対して、近年では新たに地域別のスキームを超えたアジア学術単位(Asian Academic Credits: AACs)が提案され、欧州や北米、南米の地域単位互換制度とも比較されている。さらにASEAN+3では、学生交流プログラムに関するガイドライン(Guidelines on Transcripts for Exchange Students)という新たな共通枠組みが提案され、単位互換のみならず、学生モビリティを促進するための交換プログラム制度構築の共通チェック項目が整理されつつある。第3に域内の調整が進む一方で、域外との連携も同時並行的に進みつつある。2015年から協議が開始された「EUシェア」は、ヨーロッパの質保証機構(ENQA)とヨーロッパ大学連合(EUA)が、アセアン質保証機構(AQAN)と協力して新たなアセアン・EU地域間単位互換システム(ASEAN-EU Credit Transfer Systems :AECTS)を立ち上げ、奨学金を付与して学生モビリティを高めようとしている。国際公共財としての「国際高等教育」以上述べたように、アジア高等教育圏の登場は、人材獲得競争だけに留まるのではなく、むしろ国際教育を協働という観点から実践するものとして意義づけることができる。それは単に地理的拡がりだけではなく、高等教育の新たな機能として、従来の国民国家を軸とした高等教育の国際化とは異なる次元での役割が期待される国際公共圏であり、そこで育てられる人材や蓄積される研究成果は国際公共財といえる。単一の国だけでは解決できない国境を超える課題が山積しているアジアにあって、それぞれのメンバー国は小規模ながらも、複数の国が協働して国際問題の解決に当たるメリットを斟酌し、政治・経済・社会問題を議論しようとする対話プラットフォームの構築は、地域発展の重要な原動力となる。ただし、そこでのリーダーシップの取り方は一様ではない。例えばアセアンが主導する「アセアン大学連合(AUN、前出)」や「東南アジア国際学生モビリティプログラム(AIMS、前出)」では、それぞれのメンバー大学が相互に学生や研究者を送り合うシステムをとっており、それを事務局が管轄している。それに対して、南アジア諸国連合が主導する「南アジア大学(SAU)(前出)」は、インドが主導権をとり、メンバーの7カ国からの学生をニューデリー郊外の一つのキャンパスに集める形で運営されている大学である。前者が言わばメンバー大学が事務局の下に対等に学生を送り合う「循環型」を取っているのに対し、後者はインドを中心軸とした「中心―周辺型」と言えるモデルである。この2つの違いは、プログラムの構成にもよく表れている。即ち前者のほうは、「アセアン研究」といった共通のプログラムを置きながらも、メンバー大学がそれぞれの特長を活かした得意分野を提供し合い、相互のプログラムを補いながら運営する仕組みになっている。学生はそれぞれの志向に合わせてプログラムや大学を選択する。それに対して、「南アジア大学」は、一つのキャンパスに8カ国の学生を集めてプログラムを実施することで、学生は同一の内容を共に学ぶ機会を得る。8カ国相互の間に、インドやパキスタンの例に見るように複雑な政治や経済、外交関係があることは周知の通りであるが、同大学では、敢えてそうした状況を超えて国際関係論や法学のプログラムが盛り込まれている。大事な点は、いずれのモデルにおいても、単一の国がそれぞれの枠組みの中だけで高等教育を実施していたのでは実現できない協働の学びを実践しているということであろう。それは言わば、グローバル化が進むなかで相互信頼と相互協力が求められる今日、次世代を担う人材育成という役割を担う高等教育に必要不可欠な新たな国際協働教育のスキームと言える。高等教育圏の課題と責務国際公共財を生み出す高等教育圏としての今後の展開を考える場合、アジアにおける課題のひとつは、多様な各国社会とその国別政策との相克である。ヨーロッパと比較した場合、言語や宗教といった文化全般においてアジアは非常に多様性に富み、共通の基盤とする文化を定めにくい。ま

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