カレッジマネジメント204号
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69リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017公正で働きがいのある職場をつくる3Mは、会社全体で共有すべき考え方として‘Our Vision’、‘Our Strategies’、‘Leadership Behaviors’、‘3M's Code of Conduct’などを定め、グローバルなレベルでそれを浸透させている。人事評価においては、設定した目標に対する達成度に加えて、これらの理念や価値基準に照らしてどう行動したかが問われることになる。ここでいう目標とは、最高経営責任者(CEO)が株主・投資家に約束した財務目標を事業部、機能部門、現地法人など組織の目標に落とし込み、それを受けて個人が取り組むべき業務課題を、数値化を含めて具体的に示したものである。また、理念や価値基準に照らした行動を問うことで、あるべき会社の姿に向けた正しい仕事の仕方を社員に求めている。そのことが会社の持続可能性を高めると考えるからである。処遇の基礎となるジョブグレード(職務等級)についても71カ国で統一されており、グローバルレベルでの公平性を担保しているが、給与水準については、各国の労働市場を調査した上で、国ごとに決めている。また、社員の貢献に金銭面で報いるだけでなく、同僚の推薦に基づき卓越した成果やイノベーションを表彰する制度、技術殿堂ともいうべきカールトン・ソサイエティという顕彰制度をはじめ、貢献を認知し、エンカレッジするための数多くの表彰制度を設けている。技術者には、研究・開発専門職と組織マネジメント職のいずれかの進路を選択できるデュアルラダー制度も用意されている。人材育成面では、毎年の評価に基づき階層ごとに社員の約15%を選抜して行うハイポテンシャル人材の育成、管理職を対象にした管理者研修、一般社員を対象にした研修などが体系的に組まれている。さらに、どの現地法人に対しても同じ尺度で実施される組織診断により、3年に1回、社員の意識調査を行っている。様々な改善の契機となるだけでなく、人を大切にする経営姿勢の浸透にもつながっている。理念・制度・ルールによる統治と能力主義の徹底森田氏は、組織の複雑性故に意思決定に時間がかかること、オペレーションの非効率性、事業スケールの小ささなど、3Mにも様々な課題があるとした上で、日本企業に対する課題提起の意味も込めて、以下の3つが重要であると指摘する。一つ目は、人による統合・統治には限界があり、理念・制度・ルールによる統合・統治を目指すこと。日本企業の多くは、人を送り込んで、人で統治しようとするが、ゲームルールを簡潔・明快にした上で、自分で判断し行動できるようにすることが大切と強調する。二つ目は、あらゆる属性を超えたMeritocracy(能力主義)を徹底すること。3Mでは、現地法人からスタートして本社の経営陣に登用されるケースが決して珍しくない。本社出身者だけで固めず、優秀な人材を世界のどこからでも登用しようという姿勢が貫かれている。現在のCEOもスウェーデンの現地法人の一営業マンからキャリアを重ね、トップの地位に就いている。三つ目は、ダイバーシティの価値を信じ、本社にも現地法人にも国籍・経験・ジェンダーの多様性を持ち込むこと。森田氏が挙げるこの3点は、3Mを含めて世界から賞賛されるグローバル企業に共通する最も重要な要素と考えられる。日本企業にも優れた面は多く、一括りで論じることはできないが、これらの企業と比較した場合、決定的に立ち遅れていると言わざるを得ない。大学改革に関して、民間的手法の導入が必要とされる一方で、企業と大学は違うとの主張も相変わらず聞かれる。この場合の民間や企業は日本企業を念頭においてのことと思われるが、少し視野を広げて、世界のエクセレントカンパニーに学ぶことも必要ではなかろうか。特に、サイエンスに基礎を置き、自由闊達な企業文化でイノベーションを創出する3Mから、大学はいくつもの示唆を得ることができるはずである。【参考文献】『3Mジャパングループ会社案内』2017日経ビジネス編『明るい会社3M』日経BP社,1998野中郁次郎・清澤達夫『3Mの挑戦』日本経済新聞社,1987 

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