カレッジマネジメント205号
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39キャンパス内外に横たわる、見たくない現実をスタートラインに、九州産業大学の改革の物語は始まる。原点に返る改革こうした厳しい状況のなかでスタートを切ることになったが、行ったのは原点─「産学一如」─に立ち返る、ということであった。そのときそのときの時代のニーズに合わせて変わってきたが、いつの間にかずれも同時に抱えてしまったことが、周囲からの評価につながっているのではないか…ここでしっかり原点に立ち戻り、ギャップを解消しようというのが、今次の改革の根底にある。幸いだったのは、実際に行われている教育をつぶさに見てみると、PBL教育を始め、良い取り組みも多々見られたことである。そこで、こうした財産を活かし、教育の中身を学外にもうまく伝えていくことも視野に入れ、学部改組も含んだ教育全般の改革に取り組むこととなった。当然のことながら、これほど大きな課題を前にすると、法人と大学の双方が有機的に連携しなければ、事は動かない。理事会は、2012年9月に『教育改革の考え方』を策定した。これが、学園全体の教育改革の嚆矢となった。この『考え方』に書き込まれた学部再編と基礎教育の改革に取り組むこととなった。2013年12月には一ノ瀬秋久理事長からの諮問を受けて、山本学長を長とする、外部有識者も交えた「学園将来構想検討会」が理事会下に立ち上げられた。上に述べたような強みを生かして、どのような未来図を描けるのか。10年先、20年先を見据えた改革内容が検討されたが、その成果は2014年3月に出された『答申』という形で日の目を見る。これが、一連の改革のブループリントとなった。公式なレポーティングラインとして、この答申は、検討会から大学改革推進本部会議―理事長、理事、学長、副学長、学部長全員が参集する会議―での共有と全学での合意を経て、理事会での了承へと至った。ただし、公式のレポーティングラインだけで現実は動かないのが、大学組織である。言わずもがなだが、答申ができたからすぐに改革を実行できるわけではない。九州産業大学に集う構成員に答申を理解、共有してもらうべく、対話が積み重ねられた。山本学長自ら各学部に出向き、説明と対話の場を持っている。山本学長の語り口から筆者が察するに、その道のりは険しいものであっただろう。改革は常に賛意で迎えられるわけではないのは、読者諸氏にも経験があることと思われる。本誌192号(「case1 金沢大学」)でも紹介した通り、大きな改革を成し遂げた道のりをふり返れば、その途中には関係者のたゆまぬ歩みと対話がある。『考え方』を示した理事長、これを受けて具体化を図った学長を始めとする執行部、その両者を支えた推進室のメンバーという三者の尽力が、以下で紹介する改革の裏にある。全学的な再編のあり方─芸術、理工系、文系さて、全学的な学部再編が数年間にわたって行われた。順を追って見ていこう。まずは、芸術学部である。九州で類を見ない規模と伝統を誇る芸術学部であったが、大規模な入学定員(340人)だったこともあり、定員割れを起こしていた。2016年4月に再編した際に考慮したのは、近年の情勢に鑑みると対応が必須となっている、デジタルとデザインの要素である(図表1)。また、2017年4月には同一法人の九州造形短期大学を造形短期大学部に名称変更するとともに芸術学リクルート カレッジマネジメント205 / Jul. - Aug. 2017図表1 芸術系学科の再編特集 学部・学科トレンド2017美術学科芸術表現学科生活環境デザイン学科写真・映像メディア学科ビジュアルデザイン学科ソーシャルデザイン学科写真映像学科九州造形短期大学芸術学部と同じエリアに移転2017年4月九州産業大学造形短期大学部に名称変更デザイン学科洋画、日本画、彫刻、金工、陶芸などのコース3学科から5学科12専攻へ絵画専攻2016年4月立体造形専攻メディア芸術専攻写真専攻映像メディア専攻グラフィックデザイン専攻イラストレーションデザイン専攻工芸デザイン専攻プロダクトデザイン専攻空間演出デザイン専攻情報デザイン専攻●学生数1500人の九州最大の芸術エリアの誕生●芸術学部・造形短期大学部・美術館の相互交流による刺激地域ブランド企画専攻写真表現、映像メディアコースグラフィック、ビジュアルアート、映像アニメーションコースプロダクトデザイン空間デザインコース

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