カレッジマネジメント206号
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49リクルート カレッジマネジメント206 / Sep. - Oct. 2017的な実学とは一線を画しているように思う。全学的に定めた研究の方向性は2つ。1つは、これまでにない独創的な研究に挑むこと。もう1つは、その研究成果を社会に活かし収益をあげること。即ち、肝になるのは「実用化」だ。世に出し活用されてこそ実学と捉える近大では外部連携が非常に多く、既成製品にない独創性を軸に、場合によっては生み出された商品が流通に乗り、一般に目にする機会を得る。そこで得た収益は再び研究へと循環するのである。「良い研究とは兎角お金がかかるものです。しかしそこで成果を出せればそれを社会に還元する。そこで得られたお金でさらに良い研究に励む。綺麗事ではなくきちんと大学の価値を世間にお返しするためのサイクルを考える必要があるのです」。この考えを貫いた例の1つが「近大マグロ」を生んだ水産研究所である。近年食の安全が叫ばれ、野菜も肉も人の手で育て、生産者の顔が見える流通が好まれてきたのに対し、魚だけは養殖より天然ものが良いという偏見めいた一般感覚があるという。「海の汚染が進んでいる現在は、回遊するなかで水銀等の有害物質を体内に貯め込む魚が増えている。我々のクロマグロは、何をいつ食べてどう育ったかまで分かる。食の安心安全を守るうえで一番大事なのはそこなのです」と学長は話す。1948年開設時に、いずれ起こる食料危機を見越して「海を耕す」とのコンセプトを掲げた先見の明には感銘を覚えるばかりだ。しかしその理念の大きさとは裏腹に、養殖研究を進め、少しでも成果が出れば市場に養殖魚を出して買ってもらい、その小さな収益でさらに研究を重ねる、という愚直な実績を重ねてきたという。千里の道も一歩から、常に社会ニーズを見据えた研究活動は、近大の研究に対するスタンスを表しているように思われる。高い志願度を支える広報活動錚々たる研究成果や国際連携も、それを伝える努力をしなければ社会は認識しない。即ち、ここで広報の重要性が出てくる。研究を世に出すことで流通が広報を代替することはあっても、高校生が自分の志望校として認識するにはそれだけでは不十分だ。近畿大学の広報については今更書くまでもなく有名である。読者の中には「近大マグロ」が鮮烈な記憶として残っている方もいるだろうが、それだけではない。図表1にその一端をまとめたが、平凡な広告が並ぶ中でひときわ目を引くデザインやネーミングが多い。一般に広告を見るシーンでは、その広告だけが単体として見られることはほぼなく、複数の広告に並ぶかたちで掲示されていることが大半である。また、面白いと思えば写メしてSNSで拡散する消費者心理もある。いかに目立つか、見る側の注目を集められるか、広告効果はそれにかかっているとも言えるが、近大はそのあたりを熟知しているように思う。一方で複数の大学が並ぶような連合広告には一切出稿しない等、メリハリの効いた予算を立てているという。「伝えたではなく、伝わったかが大事」という広報方針が明確である。こうした広告で注目されるためには、そこに表現するファクトが必要である。研究活動も含め、広報的な武器になり得るファクトをどう収集しているのだろうか。塩﨑学長に問うと、前述した学部長昼食会のほかに、「全教職員が情報収集力と発信力を高め、近畿大学の広報員となる」とする全学的事務組織方針を掲げているという。各学部学科・部署の教職員から、日々様々な情報が寄せられる。勿論粒度の違いはあるが、広報室が独自で収集する情報も含め、図表1 広報一例 特集 進学ブランド力調査2017

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