カレッジマネジメント206号
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51リクルート カレッジマネジメント206 / Sep. - Oct. 2017(本誌 鹿島 梓)軸には何があるのか。そこにはこれまでの経験から得た、「受験業界における偏差値序列は短期的には変えることが難しい」という忸怩たる思いがあるという。「特に関西ではその傾向が強いように思います。特定の分野で勝つことはできても、総合的な評価は変わらないところがある。偏差値を軸にしている限り、実態とは違う力学にいつまでも振り回されてしまう。だから、本学は別次元で勝負することにしたのです」。それは、他大ができないことをやること、他大に真似されないことを究めることだ。序列の上下ではなく、そこを逸脱していかに目立つか。その実態はこれまで見てきた通りである。決して目立つためだけの仕掛けではなく、実直な教育研究、広報活動の集積であることが分かる。そこに「ほかにない魅力」というベクトルでデザインの力、マーケティングの力を付しているからこそ、今の近大は強いのだ。こうした改革を支えるのはトップのビジョンやミドルマネジメントを含めたガバナンスはもちろん、教育を創る主体である教員や、現場を担う職員のスキル・スタンスによるところが大きいという。塩﨑学長は、「手前味噌ですが、うちの教職員は本当にレベルが高い。よく大学は学生第一と言いますが、学生との接点を担っているのは教職員です。教職員を大事にしなければ、大学は成り立たない。彼らが安心して気持ちよく働けるように環境や制度を整備し、パフォーマンスを遺憾なく発揮してもらわなくては」と笑う。学長は病院長時代、育児と仕事を両立する女性スタッフのために、病院内に保育園を開設した実績も持つ。昨今は学生募集市場が縮小するなかで制度改革や政策動向も激しく、教職員にかかる負担は一層重い。近大で働く教職員数は9861名(2017年5月現在)と多いが、彼らを支えるのが個人の使命感に資するモチベーションだけではあまりにも無責任であると学長は言う。教職員を大事にすることが第一であり、安心して働ける状態を創ってこそ、学生に対する価値を最大化できるという考え方である。継続して勤務したいというスタッフが増えれば、経験豊かな人材も増え、業務を効率化・高度化する好循環のサイクルが回る点もあろう。では、近大の次の一手は何なのか。塩﨑学長は2020年に向けて超近大プロジェクトを進めつつ、教育のさらなる充実を図りたいという。「近大の教育目的は、『人に愛される人、信頼される人、尊敬される人を育成すること』ですが、在籍者数が3万人を超える近大では多様な学生を受け入れているからこそ、1人も漏らさずこの目的に合致するような教育とは何かを考えていかなければいけません。独自の研究を磨いて世に循環させながら、自校教育も含め、人格の陶冶に足る人材育成を追求していくのが近大の使命です」。1970年に開始したクロマグロの研究が結実したのは2002年。32年かけて、無理だと言われた生態系トップの養殖に成功した。日本の受験における偏差値序列を崩すのは不可能だと言われているが、再び時間をかけて偏差値以外の軸を入れることができるとすれば、その主役に近大が名乗りを上げるのは間違いないだろう。0500001000001500002000002017201620152014201320122011201020092008200720062005200420032002200120001999199819971996199519941993(人)(年)2016年 国際学部開設2013年 エコ出願2011年 建築学部開設2010年 総合社会学部開設123692105236982559375481799814737132370245725127908285506831287927772910876609703299242106858108719131198140469155778163833192457112389図表3 総志願者数の推移特集 進学ブランド力調査2017※近畿大学作成

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