カレッジマネジメント206号
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55リクルート カレッジマネジメント206 / Sep. - Oct. 2017生の通学圏も、兵庫県、滋賀県、和歌山県などに広がりつつあるそうだ。従来とは異なる地域からの志願者が増える「梅田効果」にも期待がかかる。さて、21世紀社会に入り、「工学」が扱う範囲は色や形のあるモノを対象とする技術にとどまらなくなっている。従来の技術中心から、人間やシステムを含むコトも扱う工学へと広がりつつある。そんな人間中心の工学においてキーワードとなるのが「技術」に加えて、「デザイン」だと宮岸副学長は説明する。高い技術だけでなく、魅力的な製品やシステムにまとめていくデザイン力によって人に優しい社会を創り、真の豊かさを実現していこうという試みが進んでいる。そこでロボティクス&デザイン工学部が重視するのが、「デザイン思考」の教育だ。「デザイン思考」とは、従来の考え方では解決できない問題に対し、①観察、②アイデア創出、③プロトタイピング(具体化)と検証を繰り返しながら、解決策を生み出していく発想法だ。「デザイン思考」は3学科共通のカリキュラムに通底する教育手法であり、例えば全1年生向けに「デザイン思考工学概論」が提供され、さらに「デザイン思考実践演習」、「ものづくりデザイン思考実践演習」といった関連科目も開設されている。「イノベーションを創出できる起業家型の人材」を育成するためには、従来通りのものづくり教育だけでは十分ではない。技術はどの時代にも必要なものだが、求められる資質能力が変わってきたというわけだ。その意味では、狭い「工学」だけでなく、一般教養を担当する教員も巻き込んで教育が提供できる体制がとられている点も重要だ。ロボティクス&デザイン工学部では、一般教養担当教員も3学科に所属し、常に専門教育担当教員と相談しながらプロジェクトを進めるなど、一体的に教育活動を行っている。ここ3〜4年で、専門のほうから一般教養に対して要求を出すなどを通して相互の有機的連携が着実に深化してきていると西村学長は述べる。ロボティクス&デザイン工学部では現在、卒業要件124単位のうち共通科目が38単位を占めている。この38単位を無駄にすると124単位の値打ちが全体として下がってしまう。あらゆる科目についてしっかり学習し成果を出していくことが必要になっていると宮岸副学長は述べる。そこで強化が図られているのが、ディプロマ・ポリシーを基盤とした卒業時における質保証だ。大工大は昨年、文部科学省の「大学教育再生加速プログラム(AP)テーマⅤ―卒業時における質保証の取組の強化―」に採択された。現在、「工大質保証」として、ディプロマ・ポリシーを軸に学習成果の可視化と修学指導の充実を図っている。とりわけ今年度からは、各授業科目で最低限達成すべき基準を定める「ミニマム・リクワイアメント」を設定し、最終的にディプロマ・ポリシーの達成を確実なものにしようと取り組んでいる。そのために、主要科目については、単位を落としても次の学期に同じ科目を勉強できる体制を整備し、基本的な知識や技術の定着を促している。大学としては当然の取り組みだが、しっかり学ばせることで、学生が勉強の面白さを身につけ、ひいては大学院進学も現在の1割強から2〜3割に増えてくれるのではないかと西村学長は期待をかける。大工大は、高い就職率を誇ってきた伝統があるが、それも元を辿れば、簡単には卒業させてもらえないと言われるほどに厳しめの教育がなされてきたからだ。そんな良き伝統を維持するためにも、質保証の取り組みが効果を上げていくことが大切だという。「施設の素晴らしさだけに終わらせずに、どういう成果をもった学生を送り出せるかが勝負のポイントになる」と西村学長は言う。近年、日本全体で理工系人材の減少が進むなか、理工学教育の活性化は全国的な重要課題だ。日本の理工学教育の水準や魅力の向上に向けた取り組みも始まっている。今年6月には大工大を含む5つの私立工業大学が梅田キャンパスに集い、「第1回 工大サミット」が開催された。現場で活躍できる実践的な人材育成を担ってきた大学として、大工大が展開する「技術×デザイン」で専門性を身につけた人材育成への期待は高い。(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)ミニマム・リクワイアメントによる「工大質保証」特集 進学ブランド力調査2017

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