カレッジマネジメント206号
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57リクルート カレッジマネジメント206 / Sep. - Oct. 2017るが、杏林大学ではそのはるか以前から、国際的通用性の高い人材育成がミッションに掲げられているのだ。では、このミッションをどのようにして教育という営為に具現化していくか。それが中期計画においても常に課題とされた。そしてその到達点が、総合大学のメリットを最大限に活かし、学部間の垣根を低くし、文系の学問と医療系の学問のどちらも学べる体制を作ることであった。確かに、ギリシアに遡る古典古代の教養人とは円満な人格者を意味し、円満な人格者を養成するには、幅広い学びが求められ、その幅広い学びがリベラル・アーツとされたことを思うと、中国の故事にもとづく杏林大学のミッションも、それに相通じるところがある。おそらく大いなる決断であったに違いないキャンパスの統合は、何も八王子キャンパスが抱える問題を解決するだけではない。上述のような大学のミッションを達成するというポジティブな課題達成のうえでも、大きなメリットがあると判断されたのであろう。確かにICTの利便性は否定するものではないが、実質的・物理的な距離は補えず、その短縮が全学的な教育連携の可能性を格段に高めることは言うまでもない。特色ある日中英トライリンガル人材の育成ミッションにある国際的な人材の育成に関しては、もともとどの学部でも意識されてきたが、2012年度に文部科学省の競争的資金「グローバル人材育成推進事業(現:経済社会の発展を牽引するグローバル人材育成支援)」に採択されたことは、大学のグローバル化を進めるうえで大きな弾みとなった。「世界で活躍するスマートでタフな日中英トライリンガル人材の育成」と題する取り組みは、中国語と英語の2つの外国語能力を備え(留学生の場合は、母語以外の2カ国語)、スマートでタフな交渉能力をもった人材育成を目指すものである(図1)。この目的達成のために、海外協定校を増やし、留学・研修制度を整備し、ケーススタディ、アクティブラーニング、外国語でのプレゼンテーション等を導入し教授法の改革を図った。これは外国語学部だけの取り組みではない。総合政策学部では、アジアに焦点をあてた国際政治学や国際関係論を展開し、また、英語による授業と留学とを組み合わせたGCP(Global Career Program)を導入した。医学部における海外での臨床実習、保健学部における海外診療放射線技術研修や海外理学療法・作業療法研修等も、それぞれの学部のミッションに沿ったグローバル人材の育成を念頭においたプログラムである。この事業は2016年度まで継続したが、この間に全学生に占める留学者の比率は、事業採択の前年2011年度の1.7%から、2016年度には4.2%に上昇、実人数では81人から206人まで増加し、とりわけ、医学部の海外での臨床実習参加者は、2012年の5名から2016年には33名と大きな伸びを示した。グローバル人材が、ともすれば英語に特化して語られるなか、杏林の故事にもとづき中国語を重視したことは特筆に値する。さらに、2017年にアジア太平洋大学交流機構(University Mobility in Asia and the Pacic : UMAP)に加盟したことで、アジアとの連携は一層進むだろう。「グローバル人材育成推進事業」に採択されて2年後、2014年度には同じく競争的資金の「大学教育再生加速プログラム」において「日英中トライリンガル育成のための高大図1 杏林大学が育成するグローバル人材像と育成方法責任ある仕事を遂行できる3言語力を備えた人材自他の文化と教養に精通し、文化的慣習をわきまえ、対等に交渉することで創造的な結論を導き出せる人材総合政策学部開講科目の積極的な履修を推進「国際関係論」「国際経営論」「アジア政治論」「アジア経済論」等PBL形式のディベートシミュレーションケーススタディ演習独自開発のプログラム(CIC・PEP)を5名程度の少人数クラスで実施。育成方法人材像・ 「中国語で学ぶ」専門科目開講       ・ 産学・高大院連携シンポジウムの開催・ 国内外でのインターンシップ・ボランティア活動の積極的奨励・ 「中国語サロン」「英語サロン」の常設   ・ キャンパス内の中国語・英語エリア拡大・協定校からの外国人教員招聘卓抜した語学力スマートでタフな交渉能力特集 進学ブランド力調査2017

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