カレッジマネジメント206号
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77リクルート カレッジマネジメント206 / Sep. - Oct. 2017近年の国際化動向で注目したい点が2点ある。1つはトランスナショナル高等教育の拡大である。中国におけるトランスナショナル高等教育は、「内外協力による学校運営(中国語名称「中外合作弁学」)」制度により運営されており、中国の教育機関と外国の教育機関による連携により、教育機関・プログラムが設置されている。2013年の教育部発表によると、教育部あるいは省レベルの教育行政部門の認可(及び再審査の結果認可)を受けた内外協力による教育機構及び教育プログラムは1979件、在学生は約55万人、内高等教育段階の在籍者は、約45万人、全日制高等教育在学生数の約1.4%を占め、高等教育段階において内外協力による学校運営の教育プログラムを卒業した卒業生は150万人を超えている。以前は中国に進出している外国の高等教育機関が本国でいわゆる二流・三流が多いこと、営利目的の教育プログラムの問題、教育プログラムの質や適切性の問題等、多くの批判がなされてきた。しかし2000年代中盤以降は、米国有数の州立大学であるミシガン大学と理工系最高峰の上海交通大学との連携による上海交通大学・ミシガン大学連合学院、米国の私立名門ニューヨーク大学と中国の教育系の重点大学である華東師範大学の連携で設立された上海ニューヨーク大学、米国のデューク大学と武漢大学との連携により開設された昆山デューク大学、オーストラリアの国立大学モナシュ大学と中国の東南大学の連携により開設されたモナシュ・東南大学蘇州連合研究院等、海外の一流大学と中国の重点大学との連携による教育機関・プログラムが開設されている。もう1つは海外進出である。2004年から始まった孔子学院プロジェクトは、中国語・中国文化の普及を促進する教育機関である「孔子学院」を中国の教育機関と現地(外国)の教育機関との連携により設置・運営するものである。プロジェクトを統括する中国の国家漢弁・孔子学院総本部の発表によると、2016年12月時点で世界140の国や地域に512校の孔子学院が設立されており、孔子学院より規模の小さい孔子クラスルーム(孔子課堂)は、1073カ所に上る。近年は孔子学院だけでなく、九校連盟に名トランスナショナル高等教育の拡大と海外進出を連ねる中国の重点大学や地方の有力大学が海外において教育プログラムを展開したり、分校を開設したりする事例も見られる。例えば、米国有数の州立大学ワシントン大学(ワシントン州シアトル市)に設置されたグローバル・イノベーション・エクスチェンジ・インスティテュートは、中国の理工系トップの清華大学、ワシントン大学及びマイクロソフト社が三者連携で開設したものである。浙江大学は、英国有数の研究大学インペリアル・カレッジ・ロンドン内に同大学との連携により連合学院を開設しており、2017年4月には北京大学が英国の名門オックスフォード大学の中心部にビジネススクールを開校する計画を表明し、大きな話題を呼んでいる。2016年に中国共産党中央委員会及び国務院が発表した教育の対外開放に関する文書においても、中国の教育機関の海外進出を国を挙げて推奨していく政策方針が明示されており、今後この動きが加速するものと予想される。以上見てきたように、中国では、グローバリゼーションの進展と知識基盤社会の到来という新たな局面において、国家の発展と国際競争力を高める手段とした高等教育戦略がとられており、その結果、高等教育の規模の拡大や研究面での成果の向上等、大きな発展を遂げたといえる。しかしその一方で、急速な高等教育の大衆化に伴う大学生の深刻な就職難の問題、依然として残る戸籍制度による都市住民と農村住民との間の歴然とした教育機会の不平等や階層の固定化に伴う格差の拡大等、解決するべき課題が残されている。習近平国家主席は、共産党設立100周年を迎える2021年までに「小康社会」(一般市民が比較的余裕のある生活を送れる社会)の全面的実現を掲げているが、高等教育においてもトップレベルの大学を世界一流大学に引き上げると同時に、高等教育全体としていかにして全面的な発展を目指すのか、今後の動向が注視される。発展の影に残された課題※1本稿で対象とする「中国」は、中華人民共和国、所謂「中国大陸」であり、香港・マカオ特別行政自治区及び中華民国(台湾)は含まない。※2九校連盟には、北京大学、清華大学、浙江大学、南京大学、復旦大学、上海交通大学、西安交通大学、中国科技大学、ハルピン工業大学が含まれている。※3国務院(2015)国発(2015)24号『国務院関於印発統筹推進世界一流大学和一流学科建設総体方案的通知』

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