カレッジマネジメント208号
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37リクルート カレッジマネジメント208 / Jan. - Feb. 2018学先から企業側にアプローチして選考の機会を作る学生がいる一方、就活情報が届きにくい留学先において不安感のみを強めて動けなくなる学生も少なくありません。留学前の低学年時から、個別にコミュニケーションを取っておくことで、セーフティーネットとして機能することができるのです。留学に限らず学生支援全般に言えることではありますが、学生を孤立させないことが何よりも大切です。とくに留学先においては環境の変化から孤独感を抱きやすく、留学先で通学できなくなる学生もいます。交換留学プログラムの場合は、通学しないことで“交換”が成立しなくなり、長く時間をかけて留学先の大学と築き上げてきた関係が崩れかねません。交換留学プログラムが充実していることが、大学の魅力となっているケースでは、大学経営において大きな打撃となるでしょう。キャリアセンターなどの就職支援部門においては、就活における“学生の二極化”の悩みは年々深くなっています。内定率が高い水準で推移しているとはいえ、複数の企業から内定をもらう学生と、就職先が決まりにくく孤立している学生との差は広がっています。どうアクセスすべきかが教育を提供する側の課題となっているのです。今後は、就職、留学における学生支援はデータドリブンで行うことがますます求められていくでしょう。学生一人ひとりの情報を一元管理し、そのデータが基点となって複数部署間の連携ができていく。そうすることで、学生側は「教員」「就職支援」「留学支援」などの複数の窓口に対して同じ情報提供をする必要がなくなり、大学に相談するメリットを感じやすくなります。留学先の情報もしっかりとデータで管理することで、これまで教員間や留学支援部門内でとどまっていた学生個人の学修情報に、就職支援担当者がアクセスできるようになり、より個人の留学の成果に即したサポートが行えるようになります。──大学内の各セクションが一体となって支援する体制づくりが必要ですね業界や企業研究において学生が自らアクセスできる情報の量は格段に増えていますが、企業が採用で重視する内容と、学生がアピールする内容とのギャップは、依然として大きいままです(図4)。その理由として、情報量が多くても、情報にアクセスするタイミングが変わっていないことが挙げられます。多くの学生が、大学3年になって初めて就職について考え始めますが、そこから「体験学習」を深めようとしても、時間は限られています。留学に拘わらず、サークルやアルバイトなどで「体験学習」ができている人との差は、もう生まれてしまっているのです。海外留学を「アピール材料」としてとらえ、焦って留学をしようと考える学生は、留学したことそのものに価値があると考えがちですが、逆に「留学をしたのにも拘わらず、深い体験学習ができていない」と、評価が下がりかねません。単に経験だけにランクをつけるだけでは、企業が求めるものとのギャップがますます広がってしまうでしょう。「留学から戻ってきたときに(就職活動に)乗り遅れるのではないか」という漠然とした不安から、就活のために留学を諦める学生の声は今も聞きます。ただ、能力の差による結果の差が顕著になっている今、留学自体が就活に影響するとは一概には言えないでしょう。前述したように、一部の金融機関などでは連続した複数の説明会に参加することが選考上有利になると言われている企業もあるため、それに参加できない留学生にはマイナスの影響もあるでしょう。しかし、どういった業界に進みたいかが定まらないまま、留学の道を閉ざしてしまうのは、大きな機会損失なのではないかと考えています。昨今は、インターンシップが採用活動の一つの軸となっており、インターンシップに参加した学生向けの選考と、会社説明会から参加した学生向けの選考が別枠で動くケースも増えています。留学を考える場合は、夏のインターンシップに参加することで企業との接触の機会を持ち、その後のコミュニケーションにつなげることが十分可能です。大学等には、学生に就職環境に関する現状を正しく説明したうえで、留学中の学生を孤立させないようにコミュニケーションを取りながら、留学の目的実現を支援する必要があるのではないでしょうか。(取材・文/田中瑠子)

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