カレッジマネジメント211号
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12リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018AIは万能ではない、というのは近年盛んに行われているAI活用の議論において常識となりつつあるが、それではAIはどのような仕事を得意としており、逆にどのような仕事を不得意としているのだろうか。ここでは、AIが代替しにくい仕事の持つ特徴を「創造的な思考」「ソーシャル・インテリジェンス」「非定型」の3つに整理したい(図3-1)。「創造的な思考」は、抽象的な概念を整理・創出することが求められることを指す。分かりやすい例でいえば、芸術分野や、歴史学・考古学、哲学・神学等が挙げられ、コンテクストが複雑であったり、データ化や体系的な整理を行うことが難しかったり、論理的に一意に解を定め難いものであったりする対象についてはハードルが高い。芸術作品やイノベーティブな活動はもちろんのこと、例えば経営上の意思決定等も価値判断の要素が大きく、AIは関与できたとしても意思決定の補助にとどまるものと想定される。「ソーシャル・インテリジェンス」は、簡単にいえばコミュニケーション能力であるが、単純に会話を返すというものではなく、説得や交渉等、相手の心の動きを推し量りながら何らかの目的意識に沿って情報を引き出し、それに基づいて提案を行ったり、納得を得たりする力を指す。「非定型」は、予め体系化されていない多種多様な状況に対して、自分の力で何が適切かを判断することが求められることを指す。AIが対応できるのは、基本的には「学習」が可能な対象であり、過去に類似する例がなかったり、体系化・マニュアル化されていなかったりする状況に対して対応することは難しい。上記を裏返せば、「創造的な思考が必要ない」「ソーシャル・インテリジェンスを必要としない」「定型」の特徴を持つ仕事や業務はAIによって代替される可能性が高くなってくる。ここで注目したいのは、現在資格が必要とされていたり、高収入であったりする仕事や業務についても、創造的な思考の必要性が薄かったり、ソーシャル・インテリジェンスをあまり必要としなかったり、定型化されていたりするものは存在するという点である。図3-2は、コンピュータ化可能確率と平均賃金を職業ごとに示したグラフであり、右上に行くほどコンピュータ化可能確率が高まり、平均賃金も高まっていくが、会計士、弁理士、その他の法務従事者といった、平均賃金が高くても代替可能確率が高い職業が存在することが分かる。これらの業務は専門性が高く複雑で高度な業務とされているが、AI・ロボットによって技術的には代替が可能と示されている。例えば経理・会計業務では、領収書や請求書を画像認識して自動で入力・仕訳し、税務管理までシステム化させるようなクラウド会計ソフトウェアが登場している。帳簿データを解析し企業の取引情報から不正を検知すること等は、AIお得意の領域といえるだろう。難易度の高い資格を取ること等で、社会的な付加価値が高くて希少性が高い仕事に就くというのは、高収入を得るための年収が高い=代替されにくい、ではないAIが代替できる仕事、代替できない仕事3●抽象的な概念を整理・創出することが求められるか (例:芸術、歴史学・考古学、哲学・神学等)●コンテクストを理解したうえで、自らの目的意識に沿って、方向性や解を提示するスキル●役割が体系化されておらず、多種多様な状況に対応することが求められるか●予め用意されたマニュアル等ではなく、自分自身で何が適切であるか判断できるスキル●理解・説得・交渉といった高度なコミュニケーションをしたり、サービス志向性のある対応が求められるか●自分と異なる他者とコラボレーションできるスキル※ソーシャルインテリジェンス(社会的知性) =社会的知性、コミュニケーションや協調性などのスキル創造的な思考ソーシャル・インテリジェンス非定型図3-1 AI時代に求められる3つのスキルAIの得意分野、不得意分野

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