カレッジマネジメント211号
15/78

15リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018造であれば機械工学や電子工学、小売であれば経営工学、金融であれば金融工学といった具合に、その業界の製品・サービスに適した高度な知識・スキルと、AI等のITに関するある程度高度な知識・スキルの両方を持つことが求められるだろう。AIが不得意とする3つの特徴は、すなわち人に求められる3つのスキルである。AIが担えない3つのスキルのどれかを活かして活躍する多種多様な人材が、ヒューマンスキル・エキスパートである。以下はあくまで例である。まず、相関関係しか示していないデータ分析の結果から、業務ノウハウに基づいて事業上の因果関係をつきとめられる“ご意見番”が必要になる。そして、創造的思考スキルからは、適切な判断を下す管理職に加えて、創造性に秀でて新規事業を企画する“アイデアマン”が重要かもしれない。ソーシャル・インテリジェンスのスキルは、人間関係の構築が得意な“カリスマ”や、説得や交渉の場で活躍する“ネゴシエーター”等が想定されよう。非定型への対応スキルでは、コト型消費の時代に合わせて、マニュアルなしで柔軟に顧客サービスを提案・提供できる“コンシェルジュ”が必要になるだろう。重要なことは、抽象的な3つのスキルから導かれる具体的なヒューマンスキル・エキスパートは上記6つに限ヒューマンスキル・エキスパートらず多種多様だという点である。それは、高等教育機関における評価軸が今よりも多軸化することを意味する。さらに、多様な評価軸の全てで高評価を得るスーパーマンは存在し得ない。今までは、OJTに耐えられる人材が組織で高く評価されてきたため、不得意科目や欠点の底上げに重点が置かれ、総合評価という名の下で減点主義に陥るきらいがあった。しかし、今後のヒューマンスキル・エキスパートが多様化する中では、一人ひとりの個性に合わせた能力開発が重要になるだろう。エキスパートというと、AIを凌駕するような高いスキルを想像し、ハードルが高いと感じがちである。ITスキル・エキスパートの項で記したとおり、実際に求められるスキルレベル自体に高低があるだろう。しかし、本質的な点は、“AIによる失業”のようにAIと人が同じ評価軸で競争する必要はない点である。AIが人の知識やスキルを補うことで能力を底上げするような、人とAIが共存する関係が期待される。例えば業務手順やノウハウをAIが教えてくれると、業務経験の浅い人材でも質の高い業務をこなせるだろう。こう考えると、AIが提供してくれる情報を活用し、そこに各自のエキスパート能力を加えることで多様なエキスパートを生み出すことは決して難しいことではなくなるのである。AIの活用でエキスパートになりやすくなるAIが知識やスキルを補うことで、能力が底上げされる図4-2 AIを使いこなし、人間は異なる価値を提供するモデルAIを活用しつつ、人それぞれ異なる評価軸で異なる価値を加える産業構造・就業構造の姿とは特集 2030年の高等教育

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る