カレッジマネジメント211号
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24リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018programme and provider mobility (IPPM)」という表現を用いている※6。そしてその例証として、国外の教育機関の分校(branch campus)という形式に加え、最近登場した「国際連携大学(international joint university)」に注目している。これは海外の大学と国内の大学ないし政府が協力して開設するもので、例えば2009年に開設されたシンガポール工科デザイン大学は、アメリカのマサチューセッツ工科大学と中国の浙江大学、ならびにシンガポール・マネジメント大学の三大学が提携して開設されたものであり、分校とは本質的に異なる制度である。同時に、その戦略も様々であり、ドイツがエジプトやヨルダン、オマーン、ベトナム、トルコ、カザフスタン、モンゴル、インドネシアで展開している政府間の二国間協定モデルや、海外の大学と必ずペアを組んで大学を提供する中国のパートナーモデルがある。日本政府がエジプトやマレーシア、ベトナムにそれぞれ開設した大学もこうした「連携大学」に区分される。こうした提携は、まさに地政学的な政策を反映して戦略的に行われ、高等教育機会の拡大とともに、教育研究のイノベーションという観点から特定分野に特化したプログラムを提供するものが中心である。留学生政策を取り巻く変化は、今日の高等教育のあり方全体に求められている改革により今後さらに加速することが予想される。ドイツが2010年に提唱した「Industry4.0」に端を発し、人工知能(AI)やInternet of Things(IoT)を軸とする「第4次産業革命」は、「デジタル技術の進展と、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTの発展により、新たな経済発展や社会構造の変革を誘発する」※7といわれる。日本でも革新技術の開発と多様なデータの利活用によって政府、産業、社会のデジタル化を進めることで様々な社会課題を解決する「Society 5.0」の実現が期待され、新成長戦略「未来投資戦略2017」にも盛り込まれている。こうした産業構造の変容の中で高等教育においても新たな人材育成が求められている。職業技術教育(TVET)との関連性が問われ、情報テクノロジーやコンピュータを駆使したICT教育の関連性が議論されるのはそのためである。また国際社会で焦点となっている「21世紀型スキル」をめぐる高等教育を取り巻く変化──「第4次産業革命」と多文化共生の時代議論は、従来、留学生数の量的な拡大と交流の活発化を中心に考えられてきた高等教育の国際化に、求めるべき価値観や能力の問い直しと、社会の目まぐるしい変化を受けとめ、新たな知の創造を担うことができる人材育成という観点を含めることを促している。今日、国際化の議論の中で、アウトプットとともにラーニング・アウトカムに焦点が当てられるのはそのためであり、イノベーティブな教育が求められている。その一方、国際化が進む傍らで、学生や教職員のモビリティが活発化すると、それだけ異文化との出会いが増え、多文化共生としての対応や社会変容を引き起こすことがある。例えば、多民族社会のマレーシアは、かつての留学生送り出し大国から、1990年代半ば以降、高等教育の国際化に舵を切り、今日では留学生の受入れ大国になったが、もともとマレー系、中国系、インド系、その他少数民族から成っていたエスニックグループの構成に対し、今ではインドネシアやネパール、スリランカ等のアジア諸国に加え、中東やアフリカ諸国からも留学生が増え、結果として様々な社会変容が生じている。こうした変化に対応するため、マレーシアでは英語プログラムを拡充する一方で、留学生も含めたマレーシア居住者の「シティズンシップ」の形成を軸に国家の歴史や制度、現状のシステム等を総合的に教える「マレーシア研究」という科目を導入している。こうした動きは時としてナショナリズムに対する高等教育のあり方を意識させる動向であり、他国でも今後顕在化するものと考えられる。国際社会では、2030年までの共通の目標として掲げる「持続可能な発展のための目標(SDGs)」として、17の目標のうち「ゴール4」に教育が掲げられ、公正性やインクルージョン第4次産業革命──Society 5.0の実現国際連携ネットワーク各国の留学生政策多文化共生とナショナリズムSDGs 日本国内の国際化と地方創成国境を越える教育モデルの多様化高度人材養成確保教育ハブ「国際連携大学」の登場オンライン教育国際共同研修国内連携・協力図2 2030年に向けての高等教育をとりまくキーワード

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