カレッジマネジメント211号
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29リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018知識と技能を習得したことを認定しUdacityが授与する“Nanodegree”と呼ばれる独自の学位だ。Nanodegreeは、既存の大学や大学院が授与する学位のように、公的な認証機関等によって認められているものではなく、いわば「仮想学位」とも呼べるような、時代のニーズや需要に応じて新たに作り出される存在であり、現在は「自動運転車技術者」、「VR開発者」、「データアナリスト」、「人工知能」等、27種類のNanodegreeが提供され人気を博している。これらのNanodegreeは、既存の大学・大学院の学位のように生涯を通じて一定の社会的価値・通用性を有するものではないが、Udacityと提携しているIBM、グーグル、アマゾン、アップル、BMW、メルセデスベンツといった世界に名だたるIT企業や自動車メーカーが協力して教育効果の高い教育プログラム・教材等を設計・開発しており、さらにNanodegreeの取得者は、これらの企業やその他の企業・機関における就職や昇進に有利であることから、その意味では時勢に応じた社会的価値・通用性は、むしろ既存の学位よりも高い、とすら言えるかもしれない。これまでに、約2万人がUdacityからNanodegreeを授与されている。既存の大学の学位プログラムが、目まぐるしく変化し続ける社会のニーズや要請に応えられる人材を育成するために、教育課程カリキュラム改革や提供科目の選定等に困難を抱えている中で、まるで仮想通貨のような即時性や利便性を備えた「仮想学位」は、今後より勢いを増しながら高等教育に多大なインパクトを与え続けることが予想される。MicroMastersとNanodegreeは、共にMicro Credentialsと呼ばれ、既存の学位よりも即応性や対費用効果がより高い学習成果認証システムとして、注目されている。先に述べたように、前者は既存の修士プログラムの一部として派生し、後者は既存の学位とは全く異なる形で新たに出現したものであるが、世界の経済において「既存の通貨」と「仮想通貨」が混在し、時として価値交換されているように、2030年に向けて高等教育は、「既存の学位」と「仮想学位」が並立しながら、そのシステム構造や制度が大きく変革されていくことになり、既存の大学には、その両者のバランスやエコシステムを見据えた運営・経営戦略が必要とされるであろう。本論考の最後に、世界の高等教育が向かう将来的な方向性として、「教育・学習のブレンディッド化が急速に進む」ことを指摘しておきたい。現在「教育・学習のブレンディッド化」といえば、「オンライン学習」と「対面学習」を組み合わせることを指す場合が多いが、今後VRやAR等のICT技術が進歩するにつれて、現在は対面形式によって教室やフィールドでしかできないと考えられていた教育・学習活動が、オンライン上でより現実感や時空共有感を伴って実践可能になり、新たな次元・形で「教育・学習のブレンディッド化」が促進されることになるだろう。例えば、20人以下のゼミ形式で学生全員の顔が画面に常時映し出されるオンライン授業を実践し、さらに様々な学習履歴データの即時的分析とフィードバックによって授業に参加している教員や学生達の教育学習を支援するミネルバ大学(Minerva Schools)のような先進的なオンライン大学は、今後さらに進化し続け、よりauthentic・experiential・situatedな学習形態や、実習・サービスラーニング・インターンシップ等を正課内外に柔軟に組み込むような拡張的な教育カリキュラムの導入も促進されるだろう。また、AIを活用した様々な教育・学習支援の充実、学習や学習者に関するアナリティックスの進化と深化等によって、前述の「Pの10年」で挙げたような教育・学習の多様化・個別化が着実に進むと考えられる。我が国でも、産業分野や労働市場の急激な変化に伴う「社会人の学び直し」や「リカレント教育」の推進が喫緊の重要課題とされているが、就業している人達が、一時的に職を離れてフルタイムの学生として大学や大学院に戻るということは現実的に容易ではない。また、少子化によって多くの大学で定員割れが問題となっている中、社会の活力となる多様な人材を育て続けていくために、ICTを活用した新しい教育方法をどのように戦略的に導入していくかは、我が国の大学関係者はもちろんのこと、産学官の様々なステークホルダーが、来たるべき高等教育の未来像を描きながら協力して取り組むべき喫緊かつ重要な課題と言える。特集 2030年の高等教育ブレンディッドな次世代高等教育の可能性ICTで高等教育は どう変わるのか

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