カレッジマネジメント211号
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32リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018有することでお互いの文化に対する理解がさらに深められること、授業やプロジェクト学習を通じた思考・コミュニケーション技能の獲得だけではカバーすることが難しい共感力・倫理観といった社会情緒能力を養うという目的もある。投資対効果の面では、キャンパスを持たず、滞在都市の施設を最大限利用する「都市をキャンパスにする」という逆転の発想で、施設運営費を大幅に圧縮している。このため、学費は既存のトップクラスの大学の1/3未満(年間約140万円程度)だ。さらに、既存のトップクラスの大学が実施している優先枠を撤廃し、経済力、国籍、人種、性別、親族に同窓生がいるか、という要素は入学選考に一切考慮されず、1.学校成績、2.過去4年間の課外活動実績、3.独自の思考・コミュニケーション力の素養のみを総合的に評価して入学審査を行う。SATやTOEFL®テストといった共通テストは受理せず、記述・録画形式のオンライン試験で英語力の表現力を確認する。試験は無料で年3回の審査受付期間を設けている(同じ受験生は年1回のみ受験可能)。入試審査料は無料である。キャンパスという物理的制約を受けないため、定員という概念が存在しない。ただし、極めて高い審査基準を設定しているため、過去3年間の合格率は2.0%以下である。2016年度は世界160カ国以上から約2万人以上が受験し、日本人合格者も3名いた。ミネルバ大学は構想当時から米国で注目をされていたが、その実現には懐疑的な声が多かった。設立プロジェクトが始まった2012年は米国で有名大学が次々とオンライン公開講座(MOOC)を開始し、こうした授業が無料で受けられるときにブランドも確立していないアイデアだけの大学は、単なる理想論で終わる、という論調が支配的だった。それはハーバード大学で30年間以上認知科学、脳科学、心理学の分野で教鞭を執り、社会科学部長を務めたコスリン教授が初代学長に就任したり、各分野の著名人が過去のこれまでの成果や評価地位や名声を投げ出して、プロジェクトに参画したニュースを持ってしても変わらなかった。ミネルバ大学に対する評価が変わり始めたのは、開校初年度に世界中から2500人もの応募があり、選ばれた約30名の学生達が入学してからだ。プロジェクト学習に協力していた様々な学外組織はミネルバ大学の学生の質を絶賛した。またメディアも、当初は学費の安さやテクノロジーにのみ注目し、ミネルバ大学は「営利大学」で、既存のエリート大学とは別物としていたが、次第に独自の授業やプロジェクト学習、カリキュラムの質といった本質的な内容に踏み込むようになった。こうした流れは、ペンシルバニア大学やハーバード大学における学内メディアが「新しい大学の形」として取り上げたことで広まり、2015年頃からミネルバ大学のカリキュラムを導入したいという教育機関からの問い合わせが来るようになった。また学校の運営はともかく、実際にミネルバ大学の教授法が学生の思考・コミュニケーション能力の向上に寄与しているのか、という疑問もあった。そもそも優秀な学生のみを入学させているのだから、学外からの評価が高いのは当たり前ではないか、という指摘である。そこで、ミネルバ大学は全学生に対してCollege Learning Assessment + (CLA+)という問題解決、創造力、コミュニケーション力の技能試験を入学前と第1学年修了後に受験させ、その変化を確認した。その結果、ミネルバ大学の1年生は入学時点で過去の同試験を受験した他大学4年生と比較して上位22%の評価だったが、1年生修了後には他大学の4年生の上位1%にまで向上していた。CLA+は全米で500校以図表3 学生が4年間で居住する7つの滞在都市

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