カレッジマネジメント211号
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33リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018上に採用されており、ミネルバ大学の教授法の有効性を第三者機関が検証したデータとして注目されている。ミネルバ大学は自分達に対する評価を次のように捉えている。まず学習パフォーマンス評価や教授法の自己評価と改善活動について、毎授業、全ての学生の発言にルーブリック評価を行い、フィードバックを提供すること、毎週教員が担当クラスでの学びを共有し、次のクラスをどのように再設計するか調整する、きめ細かい指導をした大学は今まで存在しなかったし、不可能と考えられてきた。こうしたことを最新の情報技術を活用することで実現可能であると実証した。次に、CLA+によって外部審査においても、ミネルバ大学の教授法の有効性を証明した。さらに学生の進路については、既に90%以上のインターン先(アップル、アマゾン、ノバルティス、スタンフォード大学デザイン・スクール、サンタフェ研究所、アルゼンチン文化庁等、企業、大学、シンクタンク、政府系機関まで幅広い業界・業種)から過去に受け入れた既存の大学の学生インターンよりも満足のいく評価を受けていることから、卒業後の受け入れ先についても楽観的に考えている。ミネルバ大学はもともと、大学教育を現在の技術を用いて“本来あるべき姿”に戻すことをミッションの一つとしている。そのため、学部教育の成果とされる各方面への優れた人物の輩出という評価で既存のトップクラスの大学を上回ることを短期の目標としている。より長期的にはミネルバ大学の卒業生が様々な組織のリーダーとして活躍することが目標だが、こうした長期的目標の実現は早くても2040年頃まで待たなければならないだろう。短期的な目標を実現するには、1.世界のトップクラスの大学でミネルバ大学のカリキュラムが採用されること、2.既存のトップクラスの大学に改革を促し続ける圧力を維持すること、3.ミネルバ大学で提供されているような教授法やカリキュラムが幅広い教育機関に認知され、広まっていくことが重要だ。カリキュラムの導入に関しては、2018年秋学期から香港科技大学で一部の学生がミネルバ大学の初年度カリキュラムを受講できる等、複数の高等教育機関や一部の中等教育機関との提携が予定され、成果も出て2030年に向けたビジョンや方向性きている。ただ、創業者のベン・ネルソンは、ミネルバ大学のカリキュラムやIT設備を無条件で提供することには慎重で、当面は英語で授業が可能な特待生プログラムを実施しているトップクラスの大学等に限定して提供していく方針だ。ミネルバ大学の教授法を効果的に実施するには、従来の大学教員であれば約4週間程度のトレーニングが必要であり、こうした教育研修なしに有効な学習成果は得られない、とする同氏の考えが変わらない限り、他校への導入数が大きく伸びることはないだろう。また他大学への影響力を強めていくためには、ミネルバ大学自体が一定の規模まで拡大することも必要だ。現在の学生数は1学年あたり約150〜180名で、米国の一般的なリベラルアーツ・カレッジの1学年あたり450名程度までの規模に成長しなければ、「ギフテッド(特異な才能を発揮する学生)向けの特別学校」というレッテルを貼られて、目指している大学改革の実現が危ぶまれる。現在の合格率から算出すると、およそ5万人の受験者数が必要となり、既にミネルバ大学が一定の認知度を獲得していること、自分達が設定した入学基準を下げることは最難関大学というブランドを自ら毀損するリスクもあることから、中等教育機関にミネルバ大学の目指している教育を啓蒙していくことは引き続き重要な活動となるだろう。具体的に言えば、ミネルバ大学が提供している教授法やコンテンツを必ずしも自分達のように精密に運用されなくても有効に活用できるフォロワーを増やすことである。実際、ミネルバ大学が提供している思考・コミュニケーション力のコンテンツは公開されており、筆者も既存の中等・高等・社会人教育機関が既存のカリキュラムに応用するための支援を行っている。最新の情報技術を用いなくとも、そのエッセンスを導入することで従来にはない新しい時代にあった教育コンテンツを提供していくことは可能である。本記事が日本で大学改革を進めようと奮闘されている教職員の皆様のご参考になれば幸いである。ICTで高等教育は どう変わるのか※1IT TAKES MORE THAN A MAJOR: Employer Priorities for College Learning and Student Success(The Association Of American Colleges And Universities, 2013/4/10)※2 講義形式の学習効果の低さについては、Building the intentional university-Minerva and the future of higher education (MIT Press 2017)のP20に様々な参考文献が紹介されている。また、Active learning increases student performance in science, engineering, and mathematics (Freeman et al.,2014)も合わせて参照されたい※3 Education at a Glance 2014(http://dx.doi.org/10.1787/888933118808)

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