カレッジマネジメント211号
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41リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018二つめの課題はFDである。広義のFDか狭義のFDかは別にして、FDが教員の教育能力の開発や授業内容・方法の改善にどの程度結びつきつつあるのかについて確認し、その結果を共有する必要があるのではなかろうか。優れた内容のFDセミナーも参加者が少数だったり、顔ぶれが同じだったりというケースが多いように思われる。教員の能力開発の責任は一義的に教員本人が負うとしても、大学も組織として質保証責任を負う以上、教員の能力開発に何らかの関与は必要である。FDセミナーへの一定回数の出席義務化やFD活動の取り組みの教員評価への反映などは一つの方法だろう。大学には、環境を整え、長い目で教育研究活動を見守る温かさとプロセスや成果を見極める厳しさの両方が求められる。大学と教員の新たな関係を構築する時期に来ていることは確かである。新たな関係の構築に最も深く関わるのが学部長と学科長である。教員間の協働や教職間の協働が必要な課題も増え、学部長・学科長の役割は増すばかりであるが、学部長・学科長のマネジメント能力養成を目的とした研修は少ない。学部長・学科長以外にも図書館長、研究所長・センター長、室長など教員が長を務める職位は多い。これらの役職マネジメント能力を養成する体系的な教育システム者についても同様である。学長や副学長を対象にした研修・セミナーは大学団体等が開催しているが、当該役職に就任して初めて参加したり、単発だったりと課題も多い。多くの教員がマネジメントに携わりながら、組織を動かすための知識やスキルを体系的に学ぶ場が用意されていないのは根本的な問題である。職員についても、理事・事務局長や部課長等に対するマネジャー教育をさらに充実させる必要がある。生産性、サービスの質、やり甲斐、働き方、職員の成長等は、役職者のマネジメント能力に大きく依存する。大学にマネジメントを根付かせるためには、それを担う人材が不可欠であり、計画的・段階的にマネジメント能力を養成する体系的な教育システムの構築が急務である。大学団体等が提供するプログラムやe-learning教材も大いに活用すべきである。大学間で連携する方法もある。ただ、教育・育成の主体はあくまでも大学自身である。組織の本質を理解し、組織で働く人々に関心を寄せる。そのような人材を育て、真のマネジメントを大学に確立して、初めて2030年のさらにその先が見えてくるはずである。なお、上図は、個人と組織とステークホルダーの関係とマネジメントについて筆者の考えを図示したものである。【参考文献】苅谷剛彦(2017)『オックスフォードからの警鐘—グローバル化時代の大学論』中央公論新社塩次喜代明・高橋伸夫・小林敏男(2009)『経営管理(新版)』有斐閣大学のマネジメント改革と組織のあり方とは特集 2030年の高等教育個人と組織がともに成長する好循環を創りだす個人貢献ガバナンス(規律付け)報酬組織(=協働システム)マネジメント(人に働きかけて、協働的な営みを発展)組織目的をどこまで実現できたか経営資源を効率的に活用できたか互いを尊重しあい心身共健康な職場かステークホルダー高 校予備校企 業機 関団 体保護者学 生同窓生政 府自治体地 域社 会世 界知識スキル行動、情熱給与、昇進つながり成長生活を通した成長共通目的有効性効率性健全性仕事を通した成長

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