カレッジマネジメント211号
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42大学経営は厳しい時代を迎えている。少子化を背景に、特に私立大学で定員割れや経常収支の悪化が進みつつあることを伝えるニュースは珍しくなくなった。急速に進むグローバル化も大学のありように変化を迫っている。明日をも知れない環境の中で長期に未来を展望する作業が困難を伴うことは想像に難くない。しかし、大学が生き残っていくためには避けて通れない道でもある。今少なからぬ大学が中長期計画の策定に乗り出しているのにはそんな事情があるが、計画をレトリックに終わらせず、機能させていくのは容易でない。各大学の置かれた環境や条件が異なり、解が一つではないからだ。しかし逆説的だが、だからこそ優良な先行事例(グッドプラクティス)に学ぶことには意味がある。多くの経験に学ぶ先にこそ独自の解が見つかる可能性が高い。そこで本稿では、法政大学(以下、法政)の事例を見ていきたい。法政は、長期ビジョンHOSEI 2030を策定し、今その実現に向けて様々な取り組みを展開している。ビジョン策定やプラン実行における経験と知恵に迫りたい。市ケ谷キャンパスに田中優子総長を訪ね、お話をうかがった。法政は2018年現在、市ケ谷・小金井・多摩の3キャンパスに15学部15研究科・2専門職大学院を有し、学部生約2万9000人・大学院生約2000人を擁する。2017年度には学部一般入試の志願者数が全国2位・東日本1位(2018年度入試では延べ12.2万人、旺文社調べ)に達する等、その人気は高まるばかりだ。1880年に「東京法学社」としてスタートを切った法政は、今や日本を代表する私立総合大学に成長した。興味深いのは、現在ある15学部のうち10学部が1990年代末からの10年内に設置(改組)されていることだ(図表1)。法政は、私学最古の歴史を誇る法学部を筆頭に、長く人文社会系学部を中心とする大学として知られてきた。だが、その相貌は1990年代から2000年代にかけて大きく変化した。法政の長い歴史においても特筆すべき拡大期を迎えたといえる。キャリアデザイン学部やGIS(グローバル教養学部)に代表されるように、21世紀のグローバル社会の新たなニーズに応える学部が続々と設置され、多様で幅広い人材育成に貢献し得る学部体制が整備されてきた。しかし、拡大路線だけで本当に問題はないのか、来たる少子化時代をどう乗り切っていくのか、腰を落ち着けて顧みる機会はあまりなかったと田中総長は振り返る。特に、法人の理事長も兼ねる総長として、今後の財政基盤をどうしていくのか、重要課題として強い関心を向けてきたという。実際、大学が急速に拡大するなか、いくつか問題も散見されるようになった。例えば市ケ谷キャンパスの狭隘化。リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018HOSEI 2030の策定と実施を通して具現化する「自由を生き抜く実践知」田中優子 総長1999年国際文化学部、人間環境学部2000年現代福祉学部、情報科学部2003年キャリアデザイン学部2007年デザイン工学部2008年理工学部、生命科学部、GIS(グローバル教養学部)2009年スポーツ健康学部図表1 1990年代以降に設置された10学部< HOSEI 2030 >法政大学C A S E1拡大路線を経てHOSEI 2030策定へ

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