カレッジマネジメント217号
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31リクルート カレッジマネジメント217 / Jul. - Aug. 2019らの意見・要望に大幅に譲歩したそうだ。教員との意見相違は、ある程度織り込み済みではあるものの、それを乗り越えるには10年近くかかったという。改革に着手しても2006年までは志願者も減少を続けている。学園にとっては、困難を極めた時期であろう。教員の協力なくしては、改革は進まない。そこでとった手段は丁寧な説明と透明性を高めることであった。例えば、法人主導で作成したマスタープランでは、三菱総研に入ってもらって、ブラッシュアップしたうえで公表した。それは、ブラッシュアップに加えて第三者の目を入れてオーソライズする意味もあった。アクションプログラム(特別予算)に対する教学組織の浸透度合いについては、当初低かったが、学長のリーダーシップのもと、このままでは将来が心配と考える教員もいて、そうした教員との協働によって、また、予算を決定する審査会においては、評価基準を検討し、それに従って点数をつけ全体に公表する等工夫を重ねた。これらによって、徐々に教学組織の改革に対する積極性も高まり、ここ10年くらいアクションプログラム(特別予算)の浸透度合いも高まってきた。現在では、このガバナンスの図式通り、法人も教学も理事長のリーダーシップのもとで教職協働の運営が進むようになった。ただ、理事長のリーダーシップといっても、決してトップダウンではないことも、リーダーシップを行き渡らせる鍵である。例えば、学部長の任命制であるが、現在は理事長からのトップダウンのみの任命ではなく、学長からの推薦にもとづく任命である。その学長の推薦とは、教学組織の総意の反映なくしてできるものではなく、学長のリーダーシップに負うところが大きい。また、数々の目標が達成されたときは教職員を労う等のさりげない配慮が、次への目標達成の意欲につながっている。これは学内の人間関係の構築に資するところ大であり、自ずと教職協働を育む地盤となっている。法人、教学という区別を越えての協働があってこそ、志願者のV字回復を招来したといってよいだろう。「ガバナンスとは、結局のところ構成員全てに情報を公開し、問題を共有し、問題の克服を組織全体で考えることに尽きるのです。決してトップダウンのみでうまくいくものではありません」。二人三脚で改革を担ってこられた大谷常務理事、山下事務局長は、口を揃えてこのように話す。法人と教学からなる大学という組織をいかにして1つにして同じ方向を向かせるか、大学のガバナンスとはそこに尽きるように思う。決して未来永劫、安泰とはいえないものの、ここのところ大学の志願者は増加し、それに伴いステータスは向上している。並行して2013年頃から取り組んできたのが附属高校の改革である。同一法人に1つの事務局という構成であるからこそ可能な改革である。改革の目標は高校の底上げを図ることであった。進学校化するために取った策は、まずは、高校の名称を福岡工業大学附属城東高校に変更しイメージの転換を図り、次に現員を削減することで入学者の質を高め、さらには、優秀な教員を採用することで生徒の学力向上を目指すという、入口から出口までの改革であった。大学のステータス向上のためには、附属高校のステータスの向上も必須である。これも徐々に効果を見せ始めている。とはいうものの、イメージの向上には一世代がかかると見越しておられる。まだまだ道半ばであり、今後のたゆまぬ努力が求められる。そして学園全体としては、もう少し遠い将来に目標を掲げ、改革の方向性を定めている。大谷常務理事、山下事務局長は、「各部署がそれぞれの立ち位置を見極め自主自立するセルフマネジメント、関連部署との関係を考慮した相互マネジメントは、随分浸透してきました。この方向性は、今後も維持したいと考えております。そのうえでいえば、大学はまだ伸びしろがあります。これをいかに伸ばしていくか、そのための方策を考えねばなりません。18歳人口が減少するなかで、東アジアをも含め、いかに優秀層を引き付けるかという努力は今後も継続するとともに、生涯教育を見据えての新たな学生マーケットの開拓も必要でしょう」と、異口同音に語られる。20年にわたる改革の成果を礎にし、さらなる飛躍を期する言葉である。学園をあげた改革は当分続きそうだ。(吉田 文 早稲田大学教授)特集 大学改革と新時代のガバナンス2040年を見据え、大学の伸びしろを伸ばす方策を検討

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